イノベーション 1分解説 ~お急ぎの方向け~
英語表記は”innovation”。大きな変化や革新といった意味です。ビジネスシーンで使う場合の意味は、従来の常識を超えた新しい方法によりビジネス的に成功したものごとを指します。エジソンの電気製品の発明、自動車、飛行機、鉄道など現代の我々の生活はイノベーションのおかげで成り立っているともいえます。また電信→電話→携帯電話→スマートフォンといった発展も各段階でのイノベーションが起こったということになります。 イノベーションの多くは技術の発展が土台となっていましたが、最近ではそうではなく新基軸のサービスや、新規用途の開発も含めてイノベーションといいます。宅配便が代表例です。従来と輸送手段や運ぶもの自体は変わりませんがユーザーとサービス形態を常識を超えたコンセプトにしたことで新たな物流形態の登場となったのです。 ビジネスは、ただお客のニーズに忠実に応えていくだけでは発展しません。馬車に対するニーズにどれほど対応しても自動車は産まれませんから。ですからビジネスの原動力は「イノベーション」だともいえるのです。 ビジネス用語としての「イノベーション」は、とにかく従来の発想や商品と少しでも異なったものを創造していこうという意味で使われると思ってください。ビジネス現場でエジソンやステーィブジョブス並みのアイデアまで求める職場はまずないでしょう。イノベーションとは、どんな意味?
イノベーションは英語で「innovation」と書きます。日本にはそれに該当する概念はありませんでした。 最もピッタリした日本語を選ぶとすれば「革新」または「変革」といった言葉になるでしょう。世の中を変えていくような素晴らしい取り組みとその結果のことをいいます。 基本的にそうしたものは、多くが科学技術の発達により可能になりますね。自動車、飛行機、ロケットみなそうです。ですので最初は「技術」に重みが置かれ、「技術革新」という訳語があてられた時代もありました。 でも今は、後で述べますが、新しい技術とは直接関係のないイノベーションの方法もあります。トヨタ自動車の在庫を置かない生産方法(カンバン方式)とかも偉大なイノベーションです。 とにかくインパクトのある『社会の変化』を結果として与えるものがイノベーションなのです。以下はみなイノベーションです。今の文明ってイノベーションのお陰なのですね。科学技術をベースとしたイノベーション
- エジソンの発明した電力システムと家電製品
- ワットの蒸気機関
- IT(コンピュータ、半導体、インターネット)
制度をベースとしたイノベーション
- 17世紀にできた株式会社制度(オランダ東インド会社)
- 19世紀のアメリカにおける巨大企業群の出現(カーネギー。ロックフェラー)
- マイクロ・ファイナンス(所得の低い顧客層の自立を促すための小口の金融、インドのグラミン銀行が有名)
イノベーションの語源
英語の「innovation」は動詞「innovate」(革新する)に名詞語尾「-ation」がついて名詞となったものです。また「innovate」という英語の動詞は、ラテン語の動詞「innovare」(リニューアルする)が元となっているといわれています。リノベーションに近い感じですね。イノベーションということばどんな場面で使われるか?
基本は経営や経済の世界で使われてます
経営の世界では、企業が大きく成長していく上で、必須のものとしてイノベーションが掲げられています。イノベーションによって生まれた、技術、仕組み、商品やサービスが顧客の生活を大きく変えていきます。そのときそれを担った企業は、圧倒的な支持を顧客と社会から得ることができ、同時に莫大な利益ももたらします。通常の小さな改良による商品開発よりも経営的なメリットが大きいため、今や企業経営の必須の目標としてイノベーションに取り組む企業が増えています。 経済の世界では、経済成長の原動力としての位置づけです。産業革命はまさにそうしたものでした。イノベーションによる新商品や新技術、新システムによって、雇用創出を起こしたり、経済格差是正の手がかりとなってくれることが期待されています。どんどん拡大するイノベーションの範囲
当初は経営・経済の分野で使われていた「イノベーション」ですが、今は変革を求める多くのフィールドでこの言葉が用いられるようになっています。 医療、教育、行政から福祉まで幅広く使われています。変革が必要とされない分野は今や無く、ある意味変革への期待を込めて「イノベーション」という言葉を使わせるのかもしれません。イノベーションの対象はモノだけではない?
イノベーションは、単なるモノだけが対象ではないんです。モノ以外に実は、「仕組み」「方式」といった形のないものによるイノベーションもあるんです。それぞれにイノベーションとしての名称もあるので説明しておきましょう。プロダクト・イノベーション(製品革新)
これは誰もが驚くような商品やサービスを開発し流通させることで社会にインパクトを与え変化を起こすことです。 携帯電話、スマートホン、パソコン、電車、洗濯機など、身の回りだけでも結構ありますね。プロセス・イノベーション(工程革新/製法革新)
これは、単一の商品やサービスを指すのではありません。その商品やサービスを、用意・提供する過程(プロセス)に革新性の高い仕組みを導入して圧倒的な成果をもたらすもののことです。 コンビニは、売っている商品自体は、まあ普通のものですが、店舗の作り、販売時間、品揃え、在庫管理など、多くの点においてそれまでのスーパーや個人商店と全く異なる仕組みを提供し、瞬く間に7兆円の市場を創造しました。 宅配便もそうです。トラックを使って輸送するという点は、従来の物流会社と同じですが、集荷と配送の仕組みが、それまでの物流業とは違ったわけですね。個々の家庭から同じく個々の家庭に配達するなんてことはありませんでした。 表面的にあ、従来の産業と変わらないのですが、仕組みや組合せの工夫が優秀で、他社がまねできないわけです。こちらも今後は増えるでしょう。イノベーションの起源
イノベーションという言葉を、現在の意味で用い出したのはシュンペーターという経済学者です。彼は経済発展の真の要因を探ることが研究のテーマでした。そして彼は、経済発展の鍵は、人口増加や気候変動ではなく、画期的な商品や、画期的な経営の仕組みを創りだすことこそが、経済発展の主役だと結論づけたのです。 そして実行した人、つまりイノベーションを起こした人を「アントレプレナー(起業家)」と定義しました。 また彼は、イノベーションが既存の価値を破壊していくこともあることを見抜いていました。例えば、自動車が生まれれば、馬車は無くなります。電灯が生まれればランプやロウソクは消えていきます。まさしく旧来の当事者たちにとっては破壊なのです。こうしたイノベーションのことをシュンペーターは「創造的破壊」と名付けました。これも言い得て妙だと思います。イノベーションの定義
ではまとめとして、イノベーションの定義を引用しておきますね。新機軸。革新。 新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念。シュンペーターの用語。また、狭義には技術革新の意に用いる。(出典:デジタル大辞泉)
技術革新。新機軸。経済学者シュンペーターの用語で、経済成長の原動力となる革新。生産技術の革新、資源の開発、新消費財の導入、特定産業の構造の再組織などをさすきわめて広義な概念。(出典:大辞林 第三版)
身近なイノベーション事例 10選
こちらでは、我々の日常生活にも関係している身近なイノベーションの例を紹介します。(1)イノベーション サービス業の事例 POSレジシステム

(2)イノベーション 製造業の事例 任天堂のゲーム機
任天堂は、以前はテーブルゲームのメーカーでした。アーケードゲームしか無かった時代に家庭で手軽に楽しめるゲーム機「ファミコン」を発売。ゲーム機の常識を打ち破りました。その後もWii、pokemonGOなど全く新しいゲームの世界を世界に提供し続けています。まさにゲーム機のイノベーションの担い手です。(3)イノベーション サービス業の事例 ヤマト運輸 宅配便
(4)イノベーション 製造業の事例 クオーツ式時計 セイコー
(5)イノベーション 製造業の事例 ウォークマン ソニー

(6)イノベーション 製造小売業(SPA)の事例 ファストファッション
(7)イノベーション 中小企業の事例 メガネ21
(8)イノベーション 製造業の事例 パソコン IBM
パソコンが登場した当時は、ハードもソフトも1つの会社で作っていました。その後IBMがパソコンに参入した際に、パソコンのハードとソフトは全て、その組合せの技術(インターフェース)がオープンされ、誰でもが作れるようになりました。その結果膨大な数の企業が参入し、大変なスピードで低価格化と高性能化が進みました。「モジュール化」「オープン化」と言われる形態のイノベーションです。(9)イノベーション サービス業の事例 CoCo壱番屋(ココイチ)
(出典:ITmedia ビジネスオンライン)
(10)イノベーション 中小企業の事例 ロボットスーツ CYBERDYNE(株)
イノベーションと日本
イノベーションによる経済の発展が今ほど求められている時代はありません。今の日本が特にそうですね。 雇用の減少、少子高齢化、賃金の上昇、市場の成熟と縮小など明るい材料が見当たりません。そういった中で、行政が最後の切り札としてイノベーションに期待をかけています。文科省も経済産業省も、国の活力は、経済発展が原動力であるとわかっています。 それを盛んにしていくためには国内の企業群にイノベーションを起こしてもらわなくてはいけないわけで、様々な施策を打っています。ちなみに今政府は「科学技術イノベーション総合戦略 2014」に照らして、世界で最もイノベーションに適した国を目指しています。平成27年は、この関係だけでも500億円以上の支出を計画していました。 まさに国をあげてイノベーションに取り組まざるをえない状況なのです。イノベーションの四類型
イノベーションを整理する上で、よく使われるものがあります。アパナシーとクラークが「技術革新」と「市場対応」の2軸で分類したものが最も有名で、かつ実用的です。参考に載せておきます。 【技術革新ー市場対応の2軸によるイノベーションの分類】既存技術の強化 | 既存技術の破壊 | |
新規市場の創出 | (4)「通常」型イノベーション | (1)「新規構築」イノベーション |
既存市場の深耕 | (3)「ニッチ」型イノベーション | (2)「革命」型イノベーション |
(1)「新規構築」型イノベーション
これまでの技術体系を破壊するレベルの技術体系で、全く新しい市場を創造するもの (例:飛行機の発明、コンピュータの発明など)(2)「革命」型イノベーション
既存の技術・生産体系を破壊するレベルの技術体系で、既存の市場との結び付きを維持していくもの (例:アナログからデジタルへのオーディオの技術革新、自動車におけるマニュアルからオートマティックへの移行)(3)「ニッチ」型イノベーション
既存の技術・生産体系の中で、新たな市場を開拓していくもの (例:ヘッドフォンステレオ(ソニーのウオークマン)、家庭用テレビゲーム機など(4)「通常」型イノベーション
技術・生産手段の改良等により、より安く高品質の製品・サービスを提供するもの。インクリメンタル・イノベーションとも呼ばれるパターン。 これも広い意味ではイノベーションに入るということです。でもこれは経営学の世界だけの話です。一般的には(1)~(3)がイノベーションと言われます。イノベーションの理論の紹介
新結合(シュンペーター)
シュンペーターは、イノベーションについて最初は「新しい結合の遂行」という言い方をしていたそう 詳しくは以下の記事を御覧ください。 シュンペーターのイノベーション (創造的破壊)|事例で解説7つの機会(ドラッカー)
経営学の大家ドラッカーは、イノベーションについても、権威です。シュンペーターの提唱したイノベーションという概念を企業の経営の観点から体系化を試みました。そのために「イノベーションと企業家精神」という本も出版しています。 その中で最も重要なポイントは「イノベーションのための7つの機会」です。イノベーションを起こすやすい順にその機会(チャンス)をまとめています。 (1)予期しなかった変化 ・予期せぬ成功(予想していないのに成果が出たら、機会が隠れている) ・予期せぬ失敗(予想していないのに失敗したら、機会が隠れている) (2)ギャップの存在 ・業績ギャップ(業績が大きく変化したら、機会が隠れている) ・認識ギャップ(認識のずれが見つかったら、機会が隠れている) ・価値観ギャップ(人々に価値観のずれが見つかったら、機会が隠れている) ・プロセス・ギャップ(何かの過程のボトルネックに、機会が隠れている) (3)ニーズを見つける ・プロセス・ニーズ(何かの過程に、機会が隠れている) ・労働力ニーズ(労働力需給の著しい変化に、機会が隠れている) ・知識ニーズ(知識の穴に、機会が隠れている) (4)産業構造の変化(産業構造の変化の周辺に、機会が隠れている) (5)人口構造の変化に着目する(人口構造の変化に、機会が隠れている) (6)認識の変化をとらえる(人々の知覚や認識の変化に、機会が隠れている) (7)新しい知識を活用する(最先端の科学技術の活用に、機会が隠れている) ついでにマンガ版もご紹介!オープン・イノベーション(チェスブロウ)
「オープン・イノベーション」については以下の記事を御覧ください。イノベーションのジレンマ(クリステンセン)
「イノベーションのジレンマ」はクリステンセン氏が書いた著書のタイトルです。ちなみに原著のタイトルは「イノベーターのジレンマ」です。イノベーションの当事者である企業に起こりうるジレンマ(二つの相反する事柄の板挟みになること)について、語られています。 さて、どんなジレンマかというと・・・ ある企業(A社とします)がコツコツと既存のユーザーのために技術開発を進めているとします。これはよくあることですね。ですが頑張って技術を開発しても、それがユーザーの期待するものではなかった場合は意味がありません。でも得てしてそうなることが多いとクリステンセン氏はいいます。 一方で、A社の持つ技術とは全く別の方法で、ユーザーの悩みやニーズをかなえられる別の企業(こちらをB社とします)が新たに登場するとします。そしてその技術は品質は低いが、価格はかなり安いとします。さあ、どうなるでしょうか? まあ普通は、最初はどの顧客も様子見でしょう。でも価格が安ければ、そのほうがいいという企業がいずれ現れます。そうした会社はB社を選択します。そして徐々にB社の品質は向上します。そして、いつの間にか、値段は安いままで品質のレベルがA社のレベルにまでなったらどうなるでしょう。コストパフォーマンスから考えれば、当然B社が勝ちます。 そうすると既存ユーザーのためにコツコツと技術開発していたA社は、置いてけぼりを食うということになるわけです。A社としては、仮にB社の新技術に気づいていたとしても、既存の顧客を見捨てるわけにはいきません。 でも最終的には、B社に客を取られることになるという、実に虚しい結果になるわけです。このことがいわゆるイノベーション(この例ではイノベーターであるA社)のジレンマというものなのです。 ちなみにA社のようなコツコツと技術開発をやっていくのも華々しくはないですがイノベーションの範疇に入るのですね。クリステンセンはそれをインクリメンタルイノベーション(漸進型イノベーション)と名付けてます。 本ではハードディスク装置を例に紹介されてましたが、似た話はたくさんあります。「写真フィルム」を頑張って作っていたコダックがよい例です。 またいきなり登場して、既存の技術や仕組みを脅かす予想外のイノベーションを「破壊的イノベーション」といいます(上記の例ではB社)。たいていは低価格、低品質の製品で市場に登場します。その後次第に成長し、既存の大きな市場を脅かすようになるのです。ちょうどデジタルカメラもそうでしたね。 こうしたことが、世の常だとすると、企業はイノベーションを上手にやっていかないといけない、特に破壊的イノベーションのことを念頭においてということになると思います。企業は自分自身が破壊的イノベーションを仕掛けられる側に立たないといけないのです。書籍にはその対処の方法などが述べられています。 この「イノベーションのジレンマ」は、その意外性から非常に世間受けし、有名になりました。 私も先輩から聴いて、すぐ本を買い、おもしろいのであっという間に読んた記憶があります。興味のある方はぜひどうぞ!
『イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press』
著者:Clayton M. Christensen | 出版日:2001-07-03
出版社:翔泳社 | ASIN:B009ILGWS6