ブランド戦略とは
では最初に、そもそもブランド戦略とは何かについて説明しましょう。ブランドとは?
ブランドとは、何でしょうか。たぶん一般には高級な贅沢品という印象が浮かびます。 ルイヴィトンのバッグとかは典型的なブランド品ですよね。 一般的には、そうなのですが、ビジネスやマーケティングの世界では、高級品か否かに関係なく、同じ名称で呼んでいる商品・サービスを代表する「名称」のことをブランドといっています。ですので一本、数百円で売ってるシャンプーも「ブランド」です。写真は資生堂の「TSUBAKI」というヘアケアに関連したブランドの一商品(シャンプー)です。 ブランドは「印」という意味を持つヨーロッパの言葉が語源です。その商品、サービス全体の「名称」がブランドです。重要なのはその名称が持つ「イメージ」「性格」「客を惹きつける魅力」などです。これらは商品やサービスの実体以上の価値を持つこともあります。漢字で「印象」ということばがありますが、商品の印象こそがブランドの中身ですね! また、ブランドは、一つの商品の名称として使われるだけではありません。事業、会社全体といったものの名称がブランドとなることもあります。事業・・・トヨタ自動車の「レクサス」、ファーストリテイリングの「ユニクロ」など。
会社・・・ナイキ(NIKE)、スターバックス
戦略とは?
日頃、わりと使っていながら、説明するとなると面倒な言葉です。ビジネスの世界で当たり前のように使われている「戦略」という言葉は、もともと軍事用語でした。それを経営学者が拝借して使い出したのが始まりです(アメリカ陸軍の研究所にいたアンゾフ氏)。簡単にいうと会社が経営活動を行う中で、「何を行い、何を行わないか」という方針のことなのです。企業の持つヒト・モノ・カネ・情報といった資源を、何に振り分けていくかの意思決定ともいえます。あとは何を対象とした戦略なのかによって、内容は変わってきます。経営戦略といえば会社全体の戦略だし、事業戦略といえば、一つの事業に関する戦略を指します。ブランド戦略とは?
ブランド戦略とは、あたりまえですがブランドについての戦略です。基本は対象となる商品・サービスがより売れて利益が出るようになるための方針決定なのですが、ブランドの戦略といった場合は必ず押さえておく点があります。 それはブランドの価値を守っていくということです。この点を押さえた上で経営活動の方針を決めていくということが、他の戦略決定とは違う点です。 ブランドの価値の中身とは、先に触れた「イメージ」「性格」「客を惹きつける魅力」等といったものです。こうしたものは一朝一夕では作れない重要な企業の資産(エクイティー)だからです。 これから例として挙げる、東京ディズニーランド(TDL)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)について、顧客はテーマ・パークとしての様々な価値を認め感じています。そうした想いを大切にしつつ、さらなる成長のために両社はどんなブランド戦略を推進したかについて、後ほど説明いたします。安泰なブランドは存在しない。飛躍するには戦略が必要!
ブランドは一定の地位を確立すれば、安定した売上やシェア、利益が見込めるとされています。だから、企業はこぞって自社のブランドの価値を高めるために努力をしていくわけですね。 コカ・コーラ、シャネル、ナイキ、アップルといったブランドは常にブランドの優等生として例に挙がります。 しかしブランドは仮に一定の地位を得たとしても、成長への努力を止めてしまえば安泰というわけにはいかなくなります。 例えば和菓子の「虎屋」はご存知でしょうか。室町時代創業の500年続く老舗です。 ちなみに私はここの羊羹(「夜の梅」という商品名の小倉羊羹)が大好きです。 以前に、虎屋の社長さんの話を直接お聞きできる機会があったのですが、その時驚いたことがあります。私は、羊羹のような古くからある商品は、昔から製造のレシピは変えずに作っていると思っておりました。 原料となる小豆等の調達先をその時どきに合わせて変えてるだけかと思っていたのですが、そうではなかったんです。なんと、味を時代に合わせて変えているとのことでした。 説明では、人々の味覚の感じ方は微妙に変化していくそうです。ですので昔と同じレシピだと、甘すぎる、もしくは甘みが少なすぎて売れないということになるそうです。 和菓子のような食品を売っていく場合、味を決めるレシピは生命線だと思っています。それを変えていくというのです! ブランドを守るためには、商品の重要な根幹の部分さえも時代に合わせて変えていく勇気が必要だということを、その時知りました。 私の父は和菓子を作っていたこともありましたから、味をいじることがどんなに大変なことかは認識しています。五百年もの間ブランドを維持するということ、そして発展させていくということは、そうした決断の連続なのだと、凄い衝撃を受けたことを覚えています。 今、時代の変化は、より激しくなっています。ですから、どんな著名なブランドも、虎屋さんに限らず、そのブランドを支えてきた根幹を変えることも辞さない覚悟が必要だということはいえるでしょう。 ブランドを立ち上げて2、3年は、よいとしても、ブランドが窮地に陥った時、また飛躍が必要なときは、ブランドを成長させるために戦略の転換が必要な場合もあるのです。では、本題であるテーマパークのブランド戦略について解説しましょう。従来のブランド戦略を転換させて成功したUSJ
USJとはユニバーサル・スタジオ・ジャパンというテーマパークの略称です。イベントやアトラクションによって、「ジョーズ」「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」などハリウッド映画の世界を体験できるテーマパークとして2001年3月31日にオープンしました。 ピーク時は年間来場者数1100万人を達成したものの、2009年には700万人台にまで落ち込み倒産の危機さえささやかれていました。しかし、ここ数年で業績を急上昇させ奇跡のV字回復を果たしたといわれています。 USJをV字回復に導いたCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、森岡毅氏が自らUSJの施策及び自分のアイデアの思考法について著書を2016年の5月に出版されました。テーマ・パーク=統一された世界観
「世界最高のエンターテイメント品質のコンテンツのセレクトショップにする」
という戦略です。そして今や有名となった以下のコンテンツを次々と投入していったのです。
?人気ゲームの「バイオハザード」「モンスターハンター」。
?人気アニメの「ワンピース」「進撃の巨人」「妖怪ウォッチ」。
?人気キャラクターの「ハローキティ」。
?ハロウィーンやクリスマスなどのシーズナル・イベント
同時並行して映画「ハリー・ポッター」を数年がかりで交渉して投入し大成功を収めました。今年7月からは国内最大の部数を誇る週刊漫画誌「週刊少年ジャンプ」と本格的にコラボを開始しています。
こうした結果、冒頭で紹介したようなニュースにもなった成果を出すこととなったわけです。森岡氏の、こうした一連の思考と行動は実に称賛に値することだと思います。
TDLのブランド成長戦略
では次に、東京ディズニーランド(TDL)のブランド戦略を見てみましょう。TDLももちろん素晴らしい成長をしています。どのような成長戦略を描いてきたのでしょうか? 東京ディズニーランドは、アメリカのディズニー本社のライセンスを受けて日本の株式会社オリエンタルランドが1983年より運営をしています。 中身は基本的に米国ディズニーのものを踏襲していますので、米国ディズニーのやってきたことも総合して振り返りつつ、戦略の中身を考えてみたいと思います。●ディズニーのコンテンツにみるブランド戦略
米国ディズニーの成長戦略の基本は、「集客に役立つ、ディズニーという世界観で統一されたコンテンツの質量の拡大」です。ディズニーは当初はアニメ、映画の製作と配給が中心でしたが、現在では、テーマパークの他、米国三大ネットワークのひとつである放送局ABCも傘下に納めるメディア系総合企業です。ここではコンテンツに関する戦略を見ていきましょう。創業者であるウォルト・ディズニーは、最初は有名な「ミッキーマウス」を中心としたアニメを制作していました。他にもいくつかのオリジナル作品、演出を手がけた作品はありましたが、「ミッキーマウス」を超えるオリジナルのキャラクターや作品は作れませんでした。 そこで彼は、童話をモチーフとしたリメイクを手掛けるようになります。「白雪姫」「眠れる森の美女」「美女と野獣」「ピノキオ」など有名ですね。これらの作品を、原作と関係の深い地域に割り振って並べた世界地図があります。参考に掲げます。作成したのは、アーティストのエオウィン・スミスさんです。(画像出典Eowyn Smith)
このリメイクした童話をモチーフとしたアトラクションが、TDLの多くを占め、グッズも「くまのプーさん」「ミッキーマウス」などが人気で売れていることはご存知のとおりです。
そして、次に自社だけでなく外部の協力を得てコンテンツを増やすようになります。その代表がアメリカの映像制作会社「ピクサー」です。後にディズニーが買収し完全子会社となります。 この会社はジョージ・ルーカスの作った映画制作会社のアニメ部門でした。作品としては映画「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」「ファインディング・ニモ」が有名です。 またこうした縁がきっかけでジョージ・ルーカスとの提携も始まり、「スターツアーズ」や「インディー・ジョーンズ・アドベンチャー ~クリスタルスカルの魔宮~」「キャプテンEO」(映像にマイケル・ジャクソンを起用)といったアトラクションもTDLに加えられました。 また施設は完成していませんが、映画「アバター」を作ったライトストーム社とも提携を行い、いずれアトラクションが作られるようです(ただし米国)。 こうした流れをみてみると、コンテンツについては、急速にウイングを拡げていることがわかります。USJのたどった道と似たような感じを覚えたのは私だけでしょうか?●テーマパークという業態の限界
テーマ・パークのような「観光・レジャー」産業は儲けを維持するためリピート率を高くしなければいけないという宿命があります。 どんな観光地でもレジャー施設でも一生に一回しか来てくれないとしたら、非常に規模の拡大は難しくなりますよね。ですので、どうすれば何回も来てもらえるかということに知恵を絞るわけです。 シンプルですが効果があるのは、今までにない何かを提供することです。イベントでも施設でも、なんでもいいから新たな価値を提供することです。そうすれば、顧客は、また行ってみようかという気になるからです。 ちなみにTDLは9割以上がリピーターだといわれていますから超優等生です。これは創業者であるウォルト・ディズニーが言った次の言葉に忠実にしたがったからでしょう。ディズニーランドは、いつまでも未完成である。 現状維持では、後退するばかりである。具体的にはコツコツと毎年、新たな建物、アトラクション、ショー、イベントを増やし続けたのです。「いつまでも未完成である」とは、ウォルト・ディズニー氏の進化・拡大を続ける覚悟の裏返しだと私は受け取っています。 こうして見てみると、今やTDLには統一された世界観は無いといったほうがよいでしょう。 「くまのプーさん」「スターウオーズ」「トイ・ストーリー」「マイケル・ジャクソン」から統一した世界観を感じるなんて、無理がありますよね! 私もこの記事を書くため、あらためてTDL、TDSのアトラクションを見直しましたが「統一性」は感じられませんでした。ですので、TDLは今後も、多様なコンテンツを枠にとらわれずに取り入れ、ショーやアトラクションを展開していくことになるのだと思います。 とはいえ、不思議ですが「ディズニーらしさ」は無くなったとは全く思えません。なぜでしょうか? その秘密は「総合的なプロデュース力」のおかげだと思います。それこそがTDLの真の差別化要因であり、ブランド戦略を支えている気がします。 「総合的なプロデュース力」とは、アトラクションやパレードの「デザイン設計力」や「演出」そしてキャスト達の「サービス接遇力」です。要は、見せる内容(コンテンツ)ではなく、見せ方で勝負しているということです。だから、今のTDLはどんなコンテンツでも受容し溶け込ませてしまう力を持っているのだと思います。 よく考えてみると東京ディズニーシーが成功した時点でブランド戦略転換の最終確認を終えたのかもしれません。だから後は、話題になるコンテンツを世界中から持ってくるだけという盤石な体制ができあがったのかもしれません。よくぞ、ここまでブランド戦略を高めたなと思います!