浸透する経営理念の作り方 | そのポイントを整理してみた!

こんにちは。コンサルタントの中田です。今回は「経営理念」について取り上げます。「経営理念」は企業にとって大切なもので、よりよい経営していくためには必須なもの。これは世間の共通認識だと思います。そしてイケてる経営理念をきちんと整えることが、まずは経営のスタートだと考えられている人も多いのではないでしょうか? たぶん大企業でも自営業でも「経営理念」の大切さは感じているので、とってつけたような無難なものを一応用意してある。でも果たしてこれでいいのだろうかと思っている経営者の方は多いと思います。 また、なんとなく自社の経営理念が古臭いとか、イケてないなとなったとき、新たに「経営理念」の制定を思いつく経営者は多いです。 命じられた社員は途方にくれます。だって「経営理念」と検索すると数百社のイケてる会社の実例が出てきますし、たくさんの作り方も出てきますが、その判断基準がみな違っているからです。混乱してわからなくなると思うんですよね。実例をあげましょう。 ◎経営理念が無くても、うまくいっている企業がある。 iPhone、そしてスティーブン・ジョブスのいたアップル。絶賛しない経営者はいませんよね。でも「経営理念」にあたるものはありません。有名な”Think Different”は昔売ってたパソコン「Macintosh」の広告のキャッチフレーズです。 ◎かっこいい表現でなくても、うまくいっている企業はある ライオンキングなどのミュージカルで有名な劇団四季の四季株式会社。顧客満足度ランキングで、あの東京ディズニーランドすらダントツに引き離してナンバーワンだって知ってました?(出典) でもその経営理念は 「劇場の市民社会への復権」 「舞台成果による経済的自立」 「文化の一極集中の是正」 の3つです。善い内容なのですが、日本一のエンタメ会社としては、ちょっと地味な気が…。 ◎経営理念が変わっていても、うまくいっている企業はある 経営理念の作り方を検索すると、表現は具体的にわかりやすくとたいてい書いてあります。でも成功している会社の経営理念をみると、こんなのあるんだと思うような経営理念があります。例を1つ挙げます。

堀場制作所  「おもしろおかしく」  出典

堀場制作所は世界的な環境機器のトップメーカーですが、一瞬エンタメ系の会社の経営理念かと思いますよね。吉本ならわかりますけど。 3つの例をあげましたが、いかがだったでしょうか?「経営理念」という文言の作り方の本質さえ知っていれば実はどの会社も、正解です。筋は通ってます。記事の最後に解説します。 でも、表面的にしか「経営理念」についてわかってないと解説はむずかしいかもしれませんね。今回は、企業の経営者、もしくは広報・経営企画の方が「経営理念」の制定を命じられた場合の作る上での文章化のヒントをいくつか述べたいと思います。 WEBや書籍には、経営理念の表記や実例は山ほどありますが、本質を述べているものがほとんどありません。表記や実例を最低限しか書きませんが、本質を掴めるようにはしたいと思っています。 ではさっそく説明を始めましょう。

経営理念とは?

経営理念とはそもそも何でしょうか。 そもそも経営理念とは、「経営の基盤となる考え方・信念・哲学」のことを一般にいうようです。人間で例えると「マインドセット」というところでしょうか。定義を載せておきますね。
経営理念(けいえいりねん)management philosophy 企業の個々の活動方針のもととなる基本的な考え方。創業者や経営者によって示されたものが多い。企業内部に向けては社員の行動指針となり,企業の一員としての自尊心を高めようとする。また社会に対して企業のイメージをアピールするねらいもある。本文は出典元の記述の一部を掲載しています。 (出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
そして大事なことをいっておきます。

経営理念がない会社は無い、明文化されているか否かだけ

経営理念の無い会社は地球上に存在しません。というのは企業活動は「意思決定」の連続、意思決定するのに考える何らかの考える拠り所や基盤がなくては思考そのものができません。ですから全ての会社が「経営理念」はもっているのです。それが明文化されているかどうかが違うだけなのです。常識的には「経営理念」とは文章化されたものを指しますが、押さえておくべき本質は、まずこのことです。

経営理念は常に成長・変化していく

起業してから廃業するまで、企業は変わり続けます。人間の成長と同様です。事業領域や従業員数、売上規模、時代トレンドなど、変化要因は数え切れないほどあります。ゆえに、「明文化されていない経営理念(考えの基盤・哲学)」も変化し続けていると考えるべきです。

経営理念は全ての企業がいずれ同じになる

ここでも「明文化されていない経営理念」のことを言います。そもそも企業の存在意義を考えると、基本は「社会の役に立つこと」です。そして企業の理想型を突き詰めていくと、たぶんそれは世界中の人が共通して思うところ、願うところに落ち着くはずです。 なぜなら人間はほぼ同じ志向をもっているからです。結局は社会、環境、顧客、株主、取引先も全て大事にしていく、といった経営理念になるでしょう。私はいずれ近江商人の理想とした「三方よし」的な発想に収束されると思ってます。だから自社だけの斬新な「経営理念」というものは論理的には存在しないのです。それはある意味、反社会的な企業理念となり、成立しないですから!

企業理念を作る目的

先ほど述べた3つの前提を押さえれば、自ずと文章にするいわゆる「経営理念」を作る真の目的が見えてきます。それは次のようになります。
《経営理念を作る目的》 ある時点において社員に伝えたい、経営理念のエッセンスを文章にすること。
明文化したメッセージを日々の経営活動で実践できるよう社員に浸透させること。
ちなみに、この原理原則は私が独断で思いついたものではありません。エビデンスも載せておきますね。
重要な問題は、企業が「正しい」基本理念や「好ましい」基本理念を持っているどうかではなく、企業が、好ましいにせよ、好ましくないにせよ、基本理念を持っており、社員の指針となり、活力を与えているかどうかである 『ビジョナリー・カンパニー』 松下幸之助氏のことばより 「企業経営の成否の50%は経営理念の浸透度で決まり、残りの30%は社員のやる気を出す仕組み作りで決まり、残りの20%は戦略・戦術である。」 『21世紀をつくる 人を幸せにする会社』
一番目は世界を代表する経営学者の書籍の引用です。ちなみにビジョナリー・カンパニーとは「経営の理念を掲げて変化に挑み、長期間にわたって優良であり続ける企業」のこととされてます。 二番目は経営の神様と呼ばれる松下氏の経営理念についての言及です。 一流の学者も、経営者もともに「経営理念」の捉え方として共通しているのは『経営の実践に役立ってナンボのもの』という視点です。 従業員に最もその時に求められている課題を意識させ、そして実践に結びつける、それが真の目的なんです。 反対に駄目なのが、有っても無くてもよい空気のような「経営理念」です。「事業を通じて社会貢献します」みたいなものですね。

良い例としてリッツカールトンの経営理念の一部を紹介します。これは「サービス・バリューズ」というもので従業員がどのように考えて行動するべきかをまとめた指針です。

  1. 私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。
  2. 私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。
  3. 私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。
  4. 私は、「成功への要因」を達成し、リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。出典:ザ・リッツ・カールトン・ホテル カンパニーL.L.C.のサービス・バリューズ
とてもわかりやすいですね。こうしたときに例としてよくでてくるリッツ・カールトンですが、本当の凄さは、全社一丸となって、この実践に取り組んでいることです。単なる理想ではなく全従業員がミスティーク(奇跡といわれる接客サービス)の実現に向けて頑張っており、一貫した姿勢は実に素晴らしいと思います。

(補足)経営理念とスローガンは違う

よくある勘違いが、完全に社外向けに作られた広告のキャッチフレーズを「経営理念」と間違ってしまうことです。シャープの「目の付けどころがシャープでしょ」はスローガンです。社外の方に理想とする自社のブランドイメージを持っていただくために作られます。 なお、経営理念の前提は、従業員向けのメッセージです。ただしスローガン的に受け取られることをを期待して、あえて「経営理念」として設定しておく変化球的な方法もあります。 特に従業員が一人もいない起業初期に「経営理念」を作ったら、それはスローガンとしての意味合いが強くなります。

経営理念の役割

経営理念の目的が理解できたとしたら、後は文章を作るだけです。では何を書いたら良いのでしょうか? そのためには、経営理念を通して、どんなことを伝えたいのか、その機能というか役割を設定することが必要となります。 1つ例をあげましょう。チェーンの居酒屋さんは、今大変な激戦区です。どのチェーン店も似たようなメニューと価格帯で勝負しているからですね。でも、明確な差別化ができていたら、そのことはしっかりと従業員に認識してもらったほうがいいですよね。 鳥貴族という店はご存じでしょうか? その名称からもわかるとおり鶏肉のみのメニューで業績をあげている居酒屋チェーンです。ここの経営理念は以下のとおりです。 株式会社 鳥貴族 焼鳥で世の中を明るくする 出典:鳥貴族WEBサイト 上手に内外に自社の特徴をうたっています。他の居酒屋チェーンとの差別化、ポジショニングを明確に表現できてます。ここでは、経営理念に対して「差別化の明確化」という役割をもたせたのだと言えるでしょう。 これから創る経営理念にどんな役割をもたせるか? これは経営判断なので十分に議論することが必要です。では一般に有効とされてる「経営理念の役割」の例を掲げておきます。
  1. 中間管理職以上に、経営上の判断の拠りどころを示す
  2. なぜ経営をしているのかを示す
  3. 会社の雰囲気・文化・社風を創るための支援
  4. 従業員の考え方・行動に1つの筋を通させる
  5. 従業員のモチベーション・アップ
  6. 従業員に近い将来に実現させたい「夢・理想」
  7. 従業員に意識させたい「こだわり」「価値観?」
  8. 従業員に意識させたい「事業や商品」の差別化ポイント
  9. 従業員に意識させたい創業の原点や理由
  10. 従業員に意識させたい事業領域
  11. 事業企画や商品企画のポイント
以上を見て、あなたの会社で最も重視すべきことを検討し、経営理念として表現してみてください。

経営理念にすべきことの選び方

経営理念の役割が理解できたら、あとはその時に必要な経営理念の役割を選び、それに該当する文章を作ります。経営理念を書く際、いくつかのフォーマットがあります。それについては次のステップで説明します。 経営理念をセレクトするヒントを書きます。
  1. 経営理念の数は絞りましょう。多くても7つまでです。
  2. タイミングとして今が最適か熟慮しましょう。、なお取り上げる際は10年以上は使い続けることを意識しましょう。
  3. 既に社員に完全に浸透できていることは経営理念にいれません。ただし優先順位がある場合はそれも示してあげましょう。
  4. 既に何らかの形で意識されている理念や考え方、信念、哲学から選び文章化してください、新しい文化を作り上げるのは難しいです。
  5. 企業、そして個々の社員の弱みを平均以上に向上させるのは無理なのでやめましょう。強みをより伸ばすことを心がけましょう。
  6. できるなら社員がすでに共有している意識的なものを積極的に取り上げましょう。
  7. 骨格は経営層が考え、実際の文言は社員が担当するほうがよいものができます。

経営理念の表現

経営理念の実際の体裁は既に、いろいろなものがあります。ありすぎて困るぐらいかもしれません。一般的には欧米型と日本型があります。これから創るなら欧米型のほうがスマートでしょう。 それぞれの欧米型もしくは日本型のどちらかを選択したら、あとはそれぞれのパーツを見て、自社で経営理念として選んだ中身を配置するだけです。 欧米型の経営理念のパーツ
  • Misson/ミッション:使命、存在意義、目的
  • Values/バリュー: 価値観、信念
  • Vision/ビジョン: 展望、目指す未来、目標、将来のイメージ
  • Way/ウェイ: 行動指針、行動規範、判断基準、行動指針
  • Culture/カルチャー: スタンダード、行動規範
日本型の経営理念のパーツ
  • 社是: 会社が是とするもの、価値観、規範
  • 社訓: 会社で守るべき教訓。
もしも迷ったら 一般に【MVV】といわれる経営理念のパターンを使いましょう。「MISION(ミッション:使命)・VISION(ビジョン:展望)・VALUE(バリュー:価値観)」の頭文字をとったものです。この3つにまとめる形にすると収まりもよいし、体裁も整いやすいです。でもあくまでも形式ではなく中身が大切であることを忘れずに!

経営理念を浸透させるための工夫

経営理念を創っても社内に浸透させなければ、無駄になってしまいます。仏作って魂入れずですね。 逆に変な話ですが最終目標は、経営理念が不要になることです。誰もが当たり前に身に着けていて、今更何を言ってんだというぐらいになれば完成です。 まずは大前提として、社員が経営理念を受け入れる素地を整えることです。そもそも経営層に不信を抱いていたり、恨みを持っていたら絶対に経営理念は浸透しません。最低限の信頼関係が必要です。これは何事もそうですよね。信用できない人の話は誰も真面目に聞きませんから。 会社でよくある「理想と現実の仕事との間にあるギャップ」。それが常態化していたらアウトです。まずはここをしっかりと見つめ、信頼関係を構築してください。 そしてその次に、経営理念を浸透させる工夫です。従来から行われている方法は、いくつかあるのですが、単なる新入社員研修での徹底、社内掲示、社長訓話、朝礼での唱和、といったことは効果は無いといわれています。 日々の通常の仕事の中で意識させられる工夫が求められるのです。リッツカールトンは、さきほどの経営理念の例であげた文章を、確か一日に1つ朝礼で唱和していたと思いますが、それが有効なのは、ズバリ接客に結びついているからです。 そういった仕組みが必要だということです。とにかく日々の仕事にどう意識させられるか、このことをよく考えていきましょう。 ◎↓引用文献

経営理念 実例編

冒頭に紹介したアップルと劇団四季などの経営理念について解説しておきますね。

アップルの経営理念 解題

アップルは、もはや明文化した経営理念は不要なんです。商品、売り方、企業全体にスティーブ・ジョブズの創った理念が完璧に備わってます。誰もあらためて確認する必要はないんですね。これが究極の姿です。

劇団四季の経営理念 解説

劇団四季の文字となっている経営理念は、いささか古風ですが、ここでの役割は創立の意義を忘れないという点にあると思います。本当の意味で経営を支えている信念・哲学は別にあって、それはアップルと同じく全て内在化しているんで言う必要がないのです。 それは観客に“生きる喜び”を提供するという意識です。観劇後に「生きていて良かった」「よし、明日から頑張ろう!」と思ってもらえることを信念にしているそうです。これは全劇団員が共有しているそうです。やはり「一流」は違いますね。 (出典:顧客満足度(CS)1位の劇団四季から企業が学べる11の視点

堀場製作所の経営理念 解説

「おもしろおかしく」が経営理念のメーカー。ちょっと不思議ですね。でも理由があるんです。 普通ならメーカーの場合、「世界を変える製品開発」とか「○○でイノベーション」といったものが普通ですね。実は堀場製作所は創業時から、そうしたことを達成してしまってる世界的な先進メーカーなんです。だから今さら言う必要もないのです。そして今社員に求めたいのは以下のことです。そのまま引用しますね。

堀場製作所 社是「おもしろおかしく」の解説 常に「やりがい」をもって仕事に取り組むことで、人生の一番良い時期を過ごす「会社での日常」を自らの力で「おもしろおかしい」ものにして、健全で実り多い人生にして欲しいという前向きな願いが込められています。そのために会社は「おもしろおかしく」働ける舞台を提供します。そこで従業員が「おもしろおかしく」仕事をすれば、発想力や想像力が増すとともに、効率も上がり企業価値が高まります。その結果、お客様、オーナー(株主)、サプライヤー、そして社会とWIN-WINの関係を構築できます。→WEBサイトはこちら

この会社は、さらなる高みや社員の幸福を目指しているのです。素晴らしいです!!

まとめ

今回は、経営理念について説明しました。本質を掴めるよう書いたつもりですがいかがだったでしょうか。 最後に言いたいのは、文章化された経営理念と、実際の業績とは直接関係ないと言うことです。 素晴らしい経営理念を持っていても倒産する会社はあるし、その逆に経営理念がなくとも立派な業績をあげている会社もあります。 書いたことをご理解いただければ、あとは無数の経営理念の実例を見つつ自分で作れるようになると思います。 長文をお読みいただきありがとうございました。文中で紹介した本はどれもよいので、機会があれば読んでみてください。

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