看護師さんがSWOT分析を行う場合の事例を作ってみました。SWOT分析は企業で事業や製品の戦略を作成するためのフレームワークとして使われていますが、使い勝手がよいので最近は医療や介護の分野でも使われるようになってきています。
なお筆者は、医療従事者ではありませんので、その点はご了承ください。プロの知見については最後の参考文献をご覧ください。それではさっそく説明に入りましょう。
医療分野でSWOT分析を使う対象
SWOT分析は一般には企業の経営全般、事業や製品を対象として使われています。似たようなことを行うツールは他にもありますが、組織の内部と外部について強み、弱み、脅威、機会の4点をマトリックス(4つのセル)で一覧できる利便性が受け、企業以外でも利用されるポピュラーなツールとなっています。あなたはSWOT分析自体はよくご存知だと思いますが、一応、看護師にとってのSWOT分析について、深澤氏の著書より引用させていただきます。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
内部環境 | 強み(Strengths) ★自分たちの組織の優位な点、さらに強化していきたい点。 |
弱み(Weaknesses) ★自分たちの組織の問題、課題となっている点、強くしたい点。 |
外部環境 | 機会(Opportunities) ★自分たちの組織にとって「追い風」になるもの、好ましいもの。 |
脅威(Threats) ★自分たちの組織にとって「向かい風」になるもの、好ましくないもの。 |
企業や製品を対象とした従来のSWOT分析については以下の記事をご覧ください。
SWOT分析・クロスSWOT分析を丁寧に解説 ビジネス向け例文テンプレートも用意
また病院経営についてのSWOT分析事例については以下を参考にしてください。
以上は、組織を対象にしたものですが、最近では個人を対象に行うSWOT分析もあります。
SWOT/クロスSWOT分析|看護師 個人の転職用 具体例(テンプレ有り)
SWOT分析/クロスSWOT分析を使った就活向け自己分析の具体例(パワポテンプレあり)
SWOT分析 ~外部環境と内部環境の捉え方~
このSWOT分析というフレームワークは、自身の組織(=内部環境)と周囲や社会(=外部環境)を並行してみていくことに価値があります。「内部環境」と「外部環境」の意味はしっかり押さえておいてください。
まず外部環境というのは具体的に何のことなのでしょうか? 実は外部環境というのは、SWOT分析を行う対象組織(=内部環境)の設定によって変わる相対的なものなのです。例を挙げますね。
「看護部」についてSWOT分析を行う→「病院内の他部署(診療部、薬剤部、診療部など)+院外の全て」が外部環境。
「小児病棟」についてSWOT分析を行う→「病院内の他病棟(慢性期病棟、急性期病棟、外来病棟など)+院外の全て」が外部環境。
院外の全てというのは、病院を取り巻く「地域社会」の全てですが、どこまで含めるかは、SWOT分析を行うテーマによって決めればよいと思います。大病院なら全国が相手かもしれません。
看護のSWOT分析 手順の説明
前置きはこれぐらいにして、実際のSWOT分析をおこなうための手順を説明しましょう。いきなり4つのマスにすらすらと書ける人はいませんし、またそれは良くないやり方です。 SWOT分析は、4つの構成要素を検討していくわけですが、やる順番が大切です。SWOT分析は言葉としては「S:強み」→「W:弱み」→「O:機会」→「T:脅威」という順番で並んでいますが、分析作業は「機会」「脅威」を含む外部環境から行います。その次に内部環境の「弱み」「強み」に取り組みます。 理由は簡単で「外部環境」がわかるからこそ、内部環境の「弱み」「強み」が決められるからです。
例えば、看護部のSWOT分析を行う場合、病院内の連携がスムーズなのかは重要な検討事項になるはずです。そのとき病院内の各部署の現況を把握できていることが必要です。また今後の医療制度の方向性、地域の利用者さんのニーズ動向も無視できません。そうした外部環境のおおよそのことを最初に把握して分析しておけば、それは頭に残ってますから自然と内部環境分析の質が上がります。順番が大切なことがご理解いただけたと思います。
さて、手順は次の3つのステップからなります。メインは外部環境と内部環境の二つですが、最後にチェックをするステップが入ります。
- 外部環境(機会と脅威)の分析
- 内部環境(強みと弱み)の分析
- 整合性の確認
では、順番に説明していきましょう。
(1)「O:機会」と「T:脅威」~外部環境の未来を予想します~
まずは外部環境です。外部で現在起こっていること、また近い未来に起こってくることを予想します。あくまで対象となる組織に大きな影響を与えることだけでOKです。 チェックしていくべき項目をまずは列挙し、その後一つ一つについて確認していきます。自分の組織に当てはめたとき発展や成長につながると思えたら「機会」へ、衰退や縮小につながると感じたら「脅威」に区分し、その具体的な内容を箇条書きで書いていきます。 本来は分析者が項目を洗い出すところから始めるのですが、ここでは一般的な病院を想定して項目を掲げてみました。一つのヒントとして参考にしてみてください。看護師さんがSWOT分析を行う場合は、大部分は看護部なり病棟、診療科が対象となると思うので院外と院内に分けてリスト化しました。
■外部環境検討項目(病院外)
- 人口(国内、近隣、年代別)
- 利用者数
- 行政/法律の施策、診療報酬制度
- 主要なステークホルダー、取引先(地域行政機関、厚労省、製薬会社、卸、基幹病院など)との関係
- 地域の景気
- 地域における利用者のニーズ
- 他業界の新規参入、代替サービスの登場
- 地域における医師、看護師、技師、職員の需給
- 地域における医師、看護師、技師、職員らの平均的なニーズ(やりがい、待遇、福利厚生)
■外部環境検討項目(病院内)
- 各部署のニーズ
- 各部署の要員の充足度
- 各部署の要員の熟練度
- 各部署との連携の状況(連携のしやすさ等)
各部署のニーズについては、自分の部署に対することを中心に分析してみますが、重要度と緊急度を念頭に置いて考えるとアイデアが出てきやすいと思います。
(2)「S:強み」と「W:弱み」~内部環境の過去から現在までを分析~
次は内部環境の分析です。自らが属する組織について、過去から現在までの経緯を振り返り、以下の内容について確認していきます。 すでに行った外部環境の分析と同様に、チェックしていくべき項目をまずは列挙し、その後 一つ一つについて確認していきます。自分の組織に当てはめたとき、その回答が「強み」と思えたら「強み」へ、「弱み」だと感じたら「弱み」に書いていきます。内部環境についても医療業界、特に病院を想定して項目を掲げておきます。参考にしてください。
■内部環境検討項目(病院内)
- 競合する医療施設に対して優位な点、劣っている点
- 治療、看護の技術レベル
- 治療、看護についてウリになることの有無
- 利用者の持つイメージ
- 病院内で他部署の人たちが持つイメージ
- 治療/看護をバックアップする仕組み、組織、能力
- 自部署に所属するメンバーの能力・モチベーション
- 設備機器がそろっているか、新しいか、その整備状態
- マネジメント(指揮系統)
- 組織のまとまり、風通し、仲の良さ、チームワーク
- タイム・マネジメント(指揮系統)
- 目標、戦略の策定能力
- 目標、戦略の実行能力
- 新しいことや改善活動(看護、治療、マネジメントなど)への取り組み姿勢
- 要員の充足度、採用の体制
- 要員の熟練度
- 若い要員のトレーニングの仕組み
- ベテランのトレーニングの仕組み
- 待遇、ワークライフバランス
(3)整合性、事実の確認
とりあえず4つの欄が埋まったら、一度見直しましょう。以下のことをチェックしてください。
(1)ダブリはありませんか? 同じ内容なら整理して一つにまとめましょう。
(2)書かれたことは事実でしょうか? 思い込みで書いてはいけません。客観的なデータで必ず確認しましょう。
(3)矛盾は無いですか? 整合性が取れるようにしましょう。
(4)漏れはないですか?
ちなみに、内部環境と外部環境の各項目について検討していくとき、単純に結論が出ない場合があります。その時は考えられる可能性はすべて記載しましょう。例えば「地域の高齢化」という外部環境の変化は、「機会」にも「脅威」にもなり得ます。
高齢者には認知症、転倒への対応などに対応できる体制が必要だが要員が不足している場合。
→「脅威」となる可能性
高齢者は疾病にかかりやすいので、利用者の増加につながる
→「機会」となる可能性
SWOT分析 看護部の分析事例
東京都内の総合病院についてSWOT分析した場合を事例として掲げます。
それぞれの項目に入る内容
●強み
1.地域医療福祉との連携が可
2.地域包括ケアの中核病院としての位置づけ(老健・訪問看護などの併設)
3.新人を育てる仕組み(プリセプター制度)
4.予防医療の充実
●弱み
1.地域支援に関する看護師自身の知識が全体的に不足気味
2.看護師の人材不足
3.医療従事者に対する技術向上への圧力
4.人件費率の高騰
●機会
1.高齢化が進展し後期高齢の利用者増が確実
2.認知症高齢者の増加
3.予防医療や介護予防の推進
4.地域包括ケアの高まり
●脅威
1.医療・介護同時報酬改定(3年に一度)
2.社会保障の制度改革(生活保護制度など)
3.働き方改革による勤務医の対応
4.少子化
事例の解説
〇外部環境の「機会」「脅威」について
・「機会」
内閣府が発表している平成29年版高齢社会白書によりますと我が国の高齢化率は27.3%となっており、2025年においては団塊の世代が後期高齢者になり、2060年には2.5人に1人が高齢者になると予測されています。また高齢化が進む中、認知症患者数が、2025年には約700万人に増加、65歳以上の5人に1人が認知症であると見込まれています。このような状況の中、医療や福祉、行政、社会資源を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が必要です。 中でも医療はその中核となる役割を果たさなければなりません。
・「脅威」
高齢化が進む中で社会保障費の割合が高くなっていることが、近年指摘されています。高齢者にかかる医療については、 3年に1度の医療介護同時報酬改定によって今後も見直されて行くことになり、現状では報酬アップが見込まれることはなく、病院経営がさらに難しくなってくるのは間違いありません。また生活保護受給者に対する医療費について、疑問視される意見が多いことから、今後何らかの社会保障制度の見直しがないとも限りません。
近年政府は働き方改革について議論されていますが、 医師の労働環境についても注目されています。 医師の労働環境が見直されることになると、多くの医師が必要となり、たちまち医師不足が大きな問題となるのは間違いありません。さらに少子化問題は、診療科によっては患者数減少に繋がり、 医師や看護師不足にも直撃する問題になります。
〇内部環境の「強み」「弱み」について
・「強み」
地域包括ケアの中核となるのは、医療です。 地域の高齢者が安心して生活するには、土台である医療が安定しているかどうかが鍵になります。地域の在宅医や福祉サービスと連携ができる中核病院であれば、地域での信頼も厚く安定した患者数を獲得することが可能です。また高齢者の有病率が高いため、予防医療の必要性がさらに高まります。 急性期医療だけではなく予防医療やリハビリテーションまでサービス提供できる設備やスタッフを有している総合病院であることは強みの一つです。
医療に欠かせない看護師の教育システムであるプリセプター制度は、先輩職員が新人職員を直接教育するOJTの一つであり、新人職員が安心して長く働くためにおいて必要な制度だと言えます。
・「弱み」
医療における地域支援の必要性が高まっていますが、看護師の知識が全体的に不足気味で、院内の現場において地域支援を意識することは皆無であるといえます。
その背景としては看護師を始めとして医療スタッフの人材不足が挙げられます。 特に看護師は慢性的であり、日本看護協会が主体となって、潜在看護師に対して技術や知識に関する研修を行い、復職を促していますが、それでも人材不足に悩んでいる病院は少なくありません。
現場の看護師は、通常のルーティン業務においてもスタッフ不足で、疲弊している状態です。
医療従事者の技術向上はさらに必要ですが、このような状況の中で進んでいるとは言えません。
また、スタッフの雇用には人件費を上げざるを得ない状況で、人件費率の高騰が問題となっています。
上記で説明したパワーポイントのファイルをダウンロードできるようにしておきます。お役に立てば幸いです。
参考文献
以下の2冊は、病院の「経営」に関わっている方向けです。看護師長さん以上でしょうか? どちらかを読めば、SWOT分析、クロスSWOT分析、バランスト・スコアカードをきちんと学べます。
基本的にはこの一冊で十分。SWOT分析を含め看護師の方に必要な経営学のイメージを掴むのにちょうどいい本です。MBAを持ってる看護師さんが、経営学の本質を踏まえた上で書かれています。
基本的にはこの一冊で十分。SWOT分析を含め看護師の方に必要な経営学のイメージを掴むのにちょうどいい本です。MBAを持ってる看護師さんが、経営学の本質を踏まえた上で書かれています。
基本的にはこの一冊で十分。SWOT分析を含め看護師の方に必要な経営学のイメージを掴むのにちょうどいい本です。MBAを持ってる看護師さんが、経営学の本質を踏まえた上で書かれています。