憂鬱解消の基礎知識 憂鬱さはあって当たり前だった!
まず最初に不安や憂鬱が起こる理由を押さえておきたいと思います。こうした場合、大抵はストレス源の解説になるんですが、それは単なるきっかけで真の理由の一部でしかありません。 最も大きな理由は、人間が高度な知能と感情の働きがあるからなんです。ここをまず押さえるべきんです。 例えば、アリやトンボに嫌がることをやり続けたところで心を病むことはないでしょう。知能の発達した哺乳類(犬・猫・チンパンジー)になるとかなり人間に近づくと言われてますが、それでも自分や社会の将来を悲観して落ち込むということはありません。 この「高度な知能と感情の働き」というのは何かについて説明しておきますね。ほんとにざっくりですが次のように整理できます。 憂鬱さの原因その1 高度な知能システム 未来をイメージし、予想し、計画を立て、”繰り返しイメージ”する能力 (実際には人間だけの優れた機能があるんですが、ここではこれだけにしておきます) 憂鬱さの原因その2 高度な感情システム こちらは大事なので少し詳しく説明します。3つの大きなシステムからなります。?脅威防衛システム 自分を脅かす脅威に対して行動を起こさせるための感情を準備します。 目の前に熊や蛇、ライオンが現れた、火事が出たといった場合に、緊張、怒り、嫌悪といった感情を発生させます。脳内にコルチゾールが分泌されます。
?報酬・達成システム 何かを獲得する、達成するといった行動を起こさせるための感情を準備します。 欲しいものを手に入れる、目標を達成するとドーパミンが分泌され大きな快感を感じます。
?慰め・満足システム 慰め、慈しみ、平穏をもたらします。「脅威」がなく、何も達成する必要がなく「満足」した状態です。平和・安心を感じさせます。愛情や親切心を準備させます。愛されている、必要とされている、安全だといったことを感じるとエンドルフィンという脳内ホルモンが出ます。
ちょっと面倒な言葉が並んでいますね。これらは神経生理学といわれる学問分野での最近の知見を整理したものです。通常は、これらの4つのシステムが、バランスを取りつつ日常生活を維持しています。 原始時代に獲物を狩って暮らしていた時代には最適な仕組みでした。ところが現代では我々を襲う脅威は野生の動物ではなく、職場そのものがもたらすストレスが源となってます。ストレスは、一瞬で命を落とすような脅威ではありませんが、長い目で見るとやっかいなことは説明するまでもありません。 「憂鬱さ」の起こる原因なのですが、このシステムに以下のようなことが同時に起こるおこるからではないかといわれています。- 「高度な知能」が、脅威に関連した未来や過去についてイメージする
- 「脅威防衛システム」が発動する
- 「報酬達成システム」が発動する
- 「慰め・満足システム」が動かない
憂鬱感があることは、当たり前
これは大事ですよ! 対応方法は後で教えますので、もう少しおつきあいください。次に行きましょう。憂鬱さの感じ方に個人差がある理由
人間にとって不安や憂鬱はあってもしょうがないと言われても納得できない人がいると思います。なぜなら、同じようなストレスでも全く動じず元気な人、ひどく落ち込む人、その中間など人によって異なるからです。 誰でも自分は楽しくやっていきたいと思ってますから当然です。ではその個人差のある理由を説明します。 まず、ストレスの影響も含め人柄や性格、考え方などの個人差があるのは「遺伝(遺伝子)」「環境」の二つの影響があるからだといわれてます。その割合ですが、ほぼ半々といわれてます。検証には一卵性双生児を長期に渡って観察して統計をとるんですが、だいたいそのような比率の結果になります。 そして最近わかってきたのが、遺伝は遺伝子に基づくものなんですが、遺伝子のなかには環境の影響でその性質が発現するものもあるようなんです。発現しなければ無いことと同じです。だから遺伝と環境という単純な二分法では限界があることがわかってきました。 そして「憂鬱さ」の程度は「慰め・満足システム」の状態に依存するようなんですね。わかりやすくいうと、両親もしくは近くの人たちが小さい頃に愛情豊かな関係を築いていると「慰め・満足システム」が発達しやすいようです(脳のニューロンが発達する)。これについては納得できるかと思います。 ただし、決して恵まれたとはいえない人間関係の中で幼少期に育った方でも、理想的な大人となり、憂鬱や不安といった感じをほとんど持たないような方もいらっしゃいます。 あなたが憂鬱になりやすくても、そうでなくても、現状を確認しておくことは大切です。しかしその原因を掘り下げることはほどほどにしておいたほうが賢明です。遺伝と環境からなる真の原因を探る方法は、まだ無いからです。 それに仮に憂鬱になりやすいタイプだとしてもそれを克服するトレーニング方法が用意されてきているので問題はありません。では次です。憂鬱さを解消する方策とは?
憂鬱の解消 キーワードはメンタルへルス、コーピング、レジリエンス
憂鬱さをどうやって解消したらよいのか? 今では分類しきれないぐらい多くの手段が開発されています。ここでは仕事全般(キャリアやお金、職場の人間関係)に関するストレスへの対処という切り口で述べます。まず、関連している言葉の説明です。以下のことばが不安や憂鬱といったもんを解消したい場合のキーワードになります。
●メンタルヘルス
心の健康に関することです。対象により分類され、私たちが自分自身で行うことのできるケアのことを「セルフケア」といいます。
●コーピング
「ストレス」に対する対処方法のことをいいます。ストレス研究が源流です。今はあまり話題にならなくなりました。
●レジリエンス
「回復力」「逆境力」と訳されます。コーピングに加えて、ストレスなどに対処する「予防」「学習」といった内容も含まれます。ポジティブ心理学という心理学の一分野が源流です。
簡単にまとめますと、心の健康に関する分野を「メンタルへルス」と呼び、そのなかで、ストレスに対する回復力について扱っているのが「レジリエンス」というものだと思っていただければ結構です。
仕事でのストレス対策については、レジリエンスについての書籍が一番適切です。またそれに加えてかなり、レジリエンスを意識した臨床心理学の療法もしくは、健常者向けの対処法も増えてます。
特に最近、仏教に代表される東洋の思想やアプローチを応用し取り入れたものが数多く開発されています。宗教ではなく、科学的なエビデンスも証明されているので安心して試せる内容です。
もともと西洋の臨床心理学の主流である「認知行動療法」をベースに「慈悲」、「マインドフルネス」といった仏教のエッセンスを加えたものです。終わりに参考文献を掲げておきますので参考にしてください。
憂鬱の解消方法 体験に基いた具体策
ここでは私がセルフケア用に今まで試した中で最も有益だったことについて説明します。裏技的なことでは全くないので恐縮ですが、かなりの文献で確認し自分で経験も得たことですので参考にしていただければと思います。 結局、ストレスは無くなりません。(ストレスはある程度必要だという研究結果もあります)その上で不安や憂鬱が強い場合は、うまくつきあっていくという姿勢が大切です。では順番に書いていきます。憂鬱さをなくそうとしない
気分が落ち込んだときは、それを良くしようと手段を探してはいけないんです。気分が落ち込んだ原因を探し、理想の気分と現状の気分の落差を縮めようとすると、確実に不幸感が増し、底なし沼に引き釣りこまれてしまうという恐ろしい研究結果です。これは理想と現実のギャップを意識すればするほど、記憶に強く刻み込まれ、かつ気分が悪化するので、どんどん落ち込みが激しくなるからだそうです。この悪いループを反芻(はんすう)といいます。気をつけましょう。(マーク・ウイリアムズ『うつのためのマインドフルネス実践』,2012,p.50)自分の成長を目標とし、業績は目標としない
仕事で目標を立てるときに気をつけることをいいます。自分自身の成長や学びを目標にするのはOKです。しかし他人に認めてもらうための業績的な数字は目標にしてはいけないというものです。 これは他人に認めてもらうことを目的としてしまうと、うまくいってもいかなくても「他人の評価イコール自分」となります。これでは自分の自信やセルフイメージがよくなっていくことはありえません。 また、業績には不可抗力的な要素(景気、政治の影響、社会のトレンド、競合会社との力関係)も含まれます。自分の努力とは無関係なもので自分を評価することはやはり精神衛生上よくありません。 職場であえて名言することはありませんが、ココロの中では会社から与えられた目標と、自分自身の目標は別に設定しておくべきでしょう。 例えば営業職なら、毎月の売上目標はあるでしょう。成約金額、件数などです。それはそれとして自分自身はそうした結果とは別にそのプロセスのみに注目した目標を立てるのです。訪問件数でも電話の件数でもかまいません。自身が自分の成長度合いを測れるものを設定すればよいのです。 ちなみに、これはドゥエックの達成目標理論を参考にしています。自分への思いやりをもつ
これは最近の心理学で流行りで、仏教でいう慈悲というものを積極的に取り入れていこうというものです。実際には自分が心のなかで常につぶやいている言葉を、慈しみをもったものに変えていこうというものです。 「他人に親切にしてあげよう」ではありませんので勘違いしないでください。自分に対して慈悲を持つんです。 人は「自分には甘い」とよく言います。確かに行動面では面倒なことをこっそりやらなかったり、ルールを守らなかったりすることはあると思います。しかし実はそのとき心のなかで「自分は、またこんなことをやっちゃってる。しょうがないな」とつぶやいているものです。 とにかく自分自身を、最高の親友だと思って自分に語りかけてあげることが肝要です。これにより、本当の自信が芽生えてくるといわれています。 私自身、これについては半信半疑でした。しかし実際に人生で成功している方に、どんな内容をつぶやいているかを聴くと、まさしく自分への思いやり溢れる言葉を語られていました。 そして次にこの方に会って聞いたときに確信できました。ピース小堀?さん ピースさんは、一日100個、自分にマルをつけるということを目標にやっています。私も真似をしてやっています。私は気をつけてないと「自分と他人に関する批判」がつぶやきのほとんどになります。大事です!まとめ
今回は、憂鬱さの解消について書いてみました。 心理学的では、憂鬱さや落ち込みは、心が現在から離れ、過去と未来のことを考えた際に生じるものとされてました。 ですので従来の心理学では、落ち込んだ気分に捉われず、淡々とやるべきことをやっていくのがベターであるとされていました。いずれ時間が解決してくれるからです。 しかし最近では、予防的な心構えをもつことで無理なく真の自信が養われることが可能だといわれるようになりました。個人的には多くの人が「自分への慈しみ」を持てるようになるとよいなと思っております。自分自身が満ち足りていないと他人や社会に優しくできないことは実証されていますから。 それから、GOOGLEやインテルでも取り入れている「マインドフルネス」についてもいつか触れたいと思っておりますが、個人的にまだ実証できていないので、でき次第書きたいと思っています。いろんな瞑想を片っ端から試し、タイのお坊さんにも習ったりしたんですけど、あいにく私にはまだピンときてません。 なお、上記に書いたことはあくまでも健常な方向けに書かれたものです。そうでない場合は医師の受診をお薦めします。セルフコンパッションに関する関連記事