「コンシューマー・インサイト」と「消費者インサイト」は同じ意味で、一言でいうと「消費者の本音」のことです。消費者が財布を開く「心のボタン」ともいわれてます。今回は4つの事例を示しながら「消費者インサイト」について説明します。
最近、自動販売機で何か飲料を買ったときのことを思い出してください。なぜあなたは、その飲料を買ったのでしょうか?
同じく、最近外食たときのことを覚えていたら教えてください。なぜそのお店に入り、メニューを選んで注文したのでしょうか?
おそらく難しいと思います。でもたいていのことがそうなんです。はっきりと理由は言えないものです。意地悪だと感じられたかもしれません。でも、あなたが商品やサービスを売る側の立場だったらどうでしょう。顧客が商品を買った理由、または買わなかった理由は知りたいですよね?
ひょっとすると理由を把握するよう上司から命令されるかもしれません。 まあ仮に調べるとして、その調査結果は正しいのでしょうか? それって本音なのでしょうか?
自分のことすら自信をもって説明できないのにどうなんでしょうか? 今回は本日はこの悩ましい「コンシューマー・インサイト=消費者の本音」を知ることについて探ってみたいと思います。では説明に入りましょう。
消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)の意味とは?
まず言葉の説明です。コンシューマー(consumer)とは消費者、インサイト(insight)は「洞察」「発見」といった意味があります。 消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)は、直訳すると消費者の洞察・発見ですね。でもこれだとピンときませんね。ですので意訳した「消費者の本音」で覚えてくださればけっこうです。
消費者の行動や態度を決めている気持ちの核心部分のことを指しているので、そこからはずれなければ結構です。ちなみに「ユーザー・インサイト」「顧客インサイト」「生活者インサイト」「カスタマー・インサイト」という言い方もします。 ただ、これだけだと一般的にいう消費者ニーズ、潜在ニーズとかとどう違うのかと思いますよね。
また既にどの会社も、こうしたことは調査済みだろうと。 もちろんそうなのですが、ポイントは「本音か否か」です。消費者について現在まで膨大な調査と分析が行われてきています。ただそれが本当かということは実は証明もできないのです。 また、一番悩ましいのは、実は買った理由の真相は本人ですらわからないこともあるからです。次の説明を読んでいただくと、このあたりがご理解いただけると思います。
『消費者は合理的判断にもとづいて商品を選択していると考えられがちだが、過去のさまざまな検証的実験を通じてわかったのは、実はそうではなく、確固たる判断基準が意識されないまま購入に至るケースが少なくないことだ。 では消費者は単なる気まぐれで選択されているなら購入商品の顔ぶれはバラバラになるはずだが、実際には各人ごとに少数のブランドに集約されており、値引きやおまけ付きなどのその時々の販促状況に応じて、一定の選択肢の中から取捨選択されていると考えられる。 消費者は合理的判断をつねに意識して実行しているわけではないが、無意識に近いレベルでは、ちゃんと各人なりの判断基準を持って商品選択をしている。この消費者自身でさえキチンと把握できていない曖昧な判断基準を外部から推し量ろうとする態度や視点が、コンシューマー・インサイトにほかならない』 (出典:電通広告事典)
消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)が生まれた背景
消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)は、イギリスのとある広告会社の社内で発案されました。 1960年代の終わり頃、作れば売れるという時代が終わりを迎えつつありました。広告会社にとっては大問題。広告しても売上が伸びなければ、広告を出してくれる企業が無くなってしまうからです。そこで、悩んだ末、よりよい広告を創るために彼らは画期的な制度を発明します。 「消費者のこと」だけを考える「アカウントプランナー」という役職・役割を新設したのです。そしてそのアカウントプランナーが消費者の本音・真実を探り、その結果を踏まえて広告制作の方針をクリエイターに助言するようにしたのです。 従来は、クリエイターと呼ばれる芸術的なセンスを持ったコピーライター、グラフィックデザイナーといった人たちが、個々に自分のセンスと判断でやっていた「消費者理解の部分」を取り上げ専門家に任せる分業制にしたわけです。 消費者理解を第一義としたこの制度は、当然、成功し今や世界中の広告会社がこの制度を採用するようになっています。
広告会社が「消費者の本音を探る専門家」を創った理由
今から考えると、よい施策ではありますが、社内でいろんな軋轢があったでしょうに、なぜそこまでやったのでしょう? デザイナーたちはたぶん、猛反発したと思いますよ。では理由を説明します。
理由1 消費者は合理的判断をしていないことに気づいた
当時、既にマーケティングリサーチは盛んに行われていました。顧客にアンケート用紙を配り、集計し、数字で消費者の意向を捉えようという試みです。しかし制度を創った広告会社のアカウント・プランナーたちは、そうした結果に疑問を抱いていました。 なぜなら、そうした調査は、消費者は合理的な判断をして購入するという前提でやっていたからです。彼らは、合理的なではないけども、それでも何らかの選ぶ基準というか、ポイントはあると思ったんです。 今でこそ消費者の購買は不合理であることが科学的に証明されていますが(2002年にダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞)、彼らは現場でそれをつかんでたのかもしれません。
理由2 差別化、USP、ポジショニングといった戦略の効果が出にくくなった
商品やサービスを売るため、それまで懸命にやっていた差別化戦略・USP戦略・ポジショニング戦略といったアプローチが困難になってきたことも背景にありました。既にどの商品も企業側が差別化したつもりでも、顧客側がにとっては微差にしか感じてもらえなくなってきたからです。 頼りは「ブランド」への共感や愛着をアップさせるぐらいしか手段は無いと感じでした。(実際、今もこの傾向は続いているのでブランド戦略は主流なのです)
状況打破のため原点回帰、消費者の本音を謙虚に探ることに!
こうして2つの理由により、彼らはマーケティングの原点である、消費者自体にフォーカスします。そして、その本音を真剣に探るというアプローチについて「コンシューマー・インサイト」と命名しました。 正直、以前からあった「顧客ニーズ」と意味合いは変わらないと思いますが、ただその真理探求の真剣さを示すため、新たなことばを創ったということもあるのではないかと個人的には思っています。 現在、欧米の広告会社ではこうしたアカウント・プランナーがいるのが普通です。そして「消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)」を見つけるため世界中の広告会社がシノギを削ってます。 「消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)」は、このように広告会社から生まれたわけですが、時間が立つに連れて広告主側も、その重要さに気づくようになります。現在では、広告会社でなくともマーケティングに携わる人たちの常識的なことばとなっています。なお通常使うときは、ちょっと長ったらしいので「インサイト」と呼んでいます(以降は「インサイト」という表現も使います)。
「消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)」のリサーチと分析
では肝心のインサイトは、どうすればわかるのでしょうか。インサイトの提唱者たちは、単なる通り一遍のアンケート用紙でインサイトが掴めるとは全く思っていませんでした。そこで彼らは従来のアンケート型式の調査法から離れます。(注:正確には定量調査でなく定性調査を重視していったということなのですが専門的になりすぎるので、この程度の書き方にしておきました) より消費者の本音をつかみやすい口頭でのインタビューや、消費者の行動観察にシフトし、買う本当の理由を探っていきました。インタビューといっても様々な方法があります。インサイトを把握するのに使われる手法を紹介しておきます。まず一般的なインサイトの調査方法、そして最近の調査方法を紹介していきましょう。 ちなみに、どれを採用するにしても注意点があります。これはマーケティングリサーチの鉄則でもあります。 ◎仮説を立てておく 予想のできる範囲で、ある程度は仮説を立てておきます。それを確認しつつ、新たな情報も柔軟に受け入れていくというのが基本となります。 ◎インタビューの対象者は慎重に選ぶ ただ適当に集めてはだめで、できれば4種類の消費者に聴くべきだといわれています。
- 現在、商品を使っている人
- 購入したいと思っている人
- 使うのを中止した人
- 合する商品を使っている人
この部分の出典は以下です。
では、手法を紹介していきましょう。
消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)の調査…直接質問する方法
グループ・インタビュー(通称:グルイン)
6から8名の消費者を集め、2時間程度、司会進行の元で自由に話し合ってもらいます。うまく進行できると、相互が刺激を与えあい、会話が発展していきます。日頃は他人に言わない本音、また本人たちが日頃意識していなかったことが、ことばとなって出てきたりします。
デプス・インタビュー
1対1で、消費者に質問し自由な発言を引き出していく方法です。1時間程度です。グルインより深い話が聞けます。また人前では言いづらいことも話せます。
インタビューの注意点
この二つは最もよく行われていますが、注意も必要なので書いておきます。消費者の本音を聞き出すのは、なんやかんや言っても相当の技量が必要です。
- 環境が日常の場面とは異なる所でインタビューするので、その影響は割り引くこと
- 調査目的に意図的に協力してしまう人もいる(協力者には結構よい謝礼がでるので)
- その他、見栄を張る、人の言葉に影響されてしまう、逆に言い出せないといったこともある
- 完璧にことばで表現しきれない気持ちもある
- 本人がそもそも自覚していない本音もある
消費者インサイト(コンシューマー・インサイト)の調査…間接的に探る方法
直接聞かずに、遠回しに探っていく方法です。面倒ですが意外に思わぬ本音が出たりします。
語句連想法
ある言葉から連想するものを自由に語ってもらいます。
擬人化法
通常は、商品やブランドを人に例えてもらいます。
コラージュ・エクソサイズ
予め関連するたくさんの写真などを用意しておき、対象商品に近いイメージのものを選んでもらい、そこからインサイトを類推します。
完成法
文章のある部分を示して(穴埋めなどで)完成させます。 「広告によく見る商品は、〇〇〇だ」など。
構成法
絵を用意して、それについて感想や意見を言ってもらいます。吹き出しのついた絵を使う略画法(バブルドローイング)がポピュラーです。
役割演技法(ロールプレイング)
特定の状況を想定し、気持ちを表現してもらいます。
エスノグラフィック法(行動観察)
対象者が商品やサービスを扱う場面で、観察する方法です。これは最近は「行動観察」と言われ、グルインやデプスインタビューと同様かそれ以上に強力な方法と言われています。
ビジネスマンにいかに新書を買わせるか…
大阪市のビジネス街の中心地にある、紀伊國屋書店本町店。顧客の6割がサラリーマンだ。 売上のカギを握るのは、「新書」。安価な新書は、サラリーマンには、根強い人気商品。しかも あらゆる分野の入門書的な役割を果たすため、高価な専門書の購買につながる可能性も 高い。しかし、この店では「新書」の売上が今一つ…。店のリニューアルオープンに向け、 導入したのが「行動観察」という手法だった。国内で「行動観察」のパイオニア的な存在が「大阪ガス行動観察研究所」。そこから派遣された行動観察員が、 ビジネスマンの売り場での行動を、影のようについてまわり調査。そこから浮かびあがったのは、ビジネスマンが新書に手を伸ばさない、驚きの理由だった。ここからいかに改善し、売り場を活性するか?行動観察の実力は果たして…?
ネタバレですが、手を伸ばさないのは棚の高さとかも影響していたようです。そうした単純なことも売上を減らす要因になっているんです。怖いですね。これも立派なインサイト発見です。おすすめの本を書いておきます。
フォトダイアリー法
(出典:フォトダイアリーで実践するUX改善、ユーザー目線そのものから顧客ニーズを掘り起こす)
消費者インサイト(コンシューマーインサイト) 最新の調査方法
脳神経科学の利用
インサイトを探る最も難しいところは、無意識的に行っている行動や選択の理由を知ることです。この分野で期待されているのが脳神経科学のマーケティングへの応用です。最近ではニューロマーケティングと言われている分野です。基本は脳に生じる血液、電気信号の流れから活性化する脳の部位を特定し、そこから何かを得ようとする試みです。 以下はその例です。(出典:朝日新聞社メディアビジネス局)
●脳活動や生理的メカニズムをもとに消費者心理を解明しビジネスに応用:博報堂
●脳活プロジェクトが目指す広告表現の「黄金ルール」:大日本印刷・アサツー ディ・ケイ
●新聞広告に関する脳波調査を初めて実施 ~パンフレット「脳から見た新聞広告」を刊行~日本新聞協会
【ソーシャルメディアの分析過程(イメージ)】
インサイトを探りたい商品やサービスについてのキーワードで、ブログやツイッターFacebookなどのSNSの書き込みを収集します。分析を行い気になるキーワードからインサイトを探っていく手法です。地味な方法ではありますが、IT技術の進歩で急速に進歩しています。
キーワードを時系列で収集し、探っていくプロセスの例
(出典:株式会社デコム)
今後はこうしたアプローチが主流になっていくと思われます。
参考になる本を紹介しまして、終わりにしたいと思います。