こんにちは、コンサルタントの中田です。今回は、最近よく使われるエンゲージメントという言葉について解説します。今は結構いろいろな意味で使われていますので、ここでは広告における意味に限定して説明いたします。広告やマーケティングに携わる方にとって概要を知っていただくのに役立ちます。ではさっそく始めましょう。
エンゲージメントと広告について
一般的に「エンゲージメント」(engagement)という言葉は、「絆(きずな)」とか「つながり」のことを表します。「人」と「何か」の関係の強さを表した言葉ですね。
広告やメディアの世界での「エンゲージメント」とは、広告や記事、ブランドといったものが持つ「引きつけ力」を表します。
記事や広告といったコンテンツは、どれだけ多くの人が見てくれるかが勝負です。その記事や広告の魅力度が高ければ多くの人が見てくれるでしょう。それがエンゲージメントが高いということです!
ちなみにエンゲージメントの度合いを表すときは、エンゲージメントの後に「率」「指標」「レベル」と言った言葉を付加して使うこともあります。
広告業界でエンゲージメントが生まれた背景・歴史
このエンゲージメントに似た概念は、以前からありました。 「テレビ視聴率」「雑誌や新聞の購読部数」といったものです。広告はそれらを元に、計画実施されています。
それらの指標は一定の目安にはなっていたのですが年間に数百億円といった巨額の広告費を払っている広告主からは次第に不満が出ます。つぎのようなことです。
- メディアの種類で広告の受け取り方は変わるのでは?
- 広告に接触する状況で効果は変わるのでは?
- 広告へ接触した時の動機によって受け取り方は変わるのでは?
- 広告に接触したタイミングで効果は変わるのでは?
どれも、そのとおりで、テレビのCMにしろ、雑誌の広告にしろ、個々の広告ごとの細かい相違点は、あるはずですが、 「テレビ視聴率」「雑誌や新聞の購読部数」には一切、反映されていません。
果たしてこれでいいのだろうかと、誰もが思いますよね。そこでアメリカの広告団体が中心となって、対応策作りに取り組んだのが、そもそもの発端でした。アメリカの広告業界団体は、結構なマンパワーを使って、コンテンツの持つ引きつけ力の中身を明らかにし測定可能なものにしようと試みたのです。それが「エンゲージメント」です。
その意気込みと理想はとてもよかったですが、結局、実用レベルの指標とはならず、掛け声だけに終わりました。広告自体のもつエンゲージメント(引きつけ力)の数値化の夢は頓挫した状態になっています。
なお、エンゲージメントという言葉の響きやイメージはよいこともあり、現在では広告以外のビジネス分野でも使われてるのは事実です。広告業界が先だったのか、後だったのかはわかりませんが…。
マーケティングの世界では、顧客や、ブランドについてのエンゲージメント。そしてマネジメントの世界では組織開発で従業員(企業や仕事)についてのエンゲージメントが議論されるようになっています。
◎コミュニケーションがブランドを育てる ~エンゲージメントブランディング~
◎エンゲージメントとは:株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング
【この欄の引用及び出典】以下の資料を参考にさせていただきました。
(1)メディア・エンゲージメントが広告態度に及ぼす影響 中野 香織
(2)エンゲージメントの正体を求めて-日経BP AD WEB
(3)石崎徹(2009)「メディア・エンゲージメントの捉え方」『日経広告研究所報』245号,p.p3~7 ※石崎氏はエンゲージメントを「ある対象に対する短時間の引きつけ効果」だと定義しています。私も最もよい定義だと思います。
エンゲージメント広告の驚くべき展開~FACEBOOKとツイッター~
言い出しっぺの広告業界では、尻つぼみ状態となりましが、意外なところで、本来のエンゲージメントの理想が実現します。それはネット、SNSの世界でした。
FACEBOOKとツイッターが、広告業界の理想を実現してしまったのです。
FACEBOOKとツイッターがやったのは、投稿された記事、つぶやきのエンゲージメント率を、読者のアクションによって測定することでした。
例えば、最も良い例が、FACEBOOKの「いいね!」です。
FACEBOOKの投稿記事は、通常はただタイムラインに掲載され、時間とともに流れ消えていくだけですが、読者が「よい」と思ったものは「いいね!」が押されます。
これは、その投稿記事のエンゲージメント(引きつけ力)が高かったと解釈しても納得できますね。ツイッターも同様です。
こうして広告業界の悲願は、いとも簡単にSNSの世界で、かつ一般の人々が使う日常のツールで実用化されたのです。
参考にFACEBOOKとTwitterのエンゲージメントの中身を載せておきますね。
FACEBOOKとTwitterのエンゲージメント率 比較表
?エンゲージメントの測定対象 | カウント方法 | ?投稿の表示基準 | |
?いいね!、コメント、シェア、クリック | ?ユニーク数 (同じ人のカウントは一回とカウント) |
?エッジランクという独自基準で選別して表示(注) | |
クリック、リツイート、返信、フォロー、いいね | 表示回数 (同じ人が3回見たら、3回とカウント) |
?全て表示 |
(注)FACEBOOKは、投稿しても友逹に全ては届きません。エッジランクという独自基準で、そのユーザーにとって読む価値があるとされた投稿が表示されます。
参考→より効果的に運用するために!Facebookページでの「リーチ」を理解しよう
FACEBOOKとツイッターのエンゲージメント率の計算式
FACEBOOKのエンゲージメント:1投稿のエンゲージメント率の計算式
(いいね!+コメント+シェア+クリック)を行なった人数÷読者数
Twitterのエンゲージメント:1ツイートのエンゲージメント率の計算式
(クリック+リツイート+返信+フォロー+いいね)の合計÷インプレッションの合計
これらを総合するとFacebookのほうが、本来のエンゲージメントの哲学(?)に忠実で、かなりシビアに計算しています。私は好感が持てますね。
エンゲージメント課金型広告(CPE広告)の登場
そして次にこれらを発展させ広告という商品の形にしたのがgoogleとツイッターです。エンゲージメント課金型広告、もしくはCPE広告と呼ばれています。
CPEとは”Cost Per Engagement”の頭文字をとったもので、1エンゲージメントあたりの広告コストのことをいいます。ここでいうエンゲージメントは、一般的なエンゲージメントではなく、読者のある特定のアクションのことを言います。例えばつぎにようなアクションです。
GoogleのCPE広告
「ライトボックス広告」という広告商品(大きなサイズに展開可能なエキスパンド広告)では、広告に 2 秒間カーソルを合わせたらエンゲージメントの証明として課金。
ツイッターのCPE広告
広告が配信されたユーザーの初回の反応に対して課金される型式です。→詳細
1つのクリックがエンゲージメントの一単位というのは、誕生した背景からすると「あれっ」とも思いますよね? そもそも、これって普通のPPC広告じゃないでしょうか?
PPC広告(Pay Per Click Advertising)とは、検索結果の周辺などに出てくる、あのクリックすると課金されるタイプの広告です。
私は、これらのCPE広告は、エンゲージメントと名付けるほどではないような…、単なるPPC広告ではないのでしょうか。皆さんはどう思われますか?
メディアにも必要なエンゲージメント
ここまでは広告や投稿記事という、いわゆるコンテンツについて語ってきました。でも実際にはコンテンツはメディアという入れ物がないと伝えられません。
入れ物であるメディアについては、エンゲージメントは検討されているのでしょうか?
これは今後は大いに可能性があると思ってますし、メディアを選択する場合の参考になる指標が育ってほしいと思います。新聞がよいかテレビがいいかというような選択、雑誌の中で、どの雑誌がよいのかという選択、また同じ雑誌の中でもどのページがよいのかなど、考えればいくらでもあります。
メディア、ビークル、掲載場所といったそれぞれについて、エンゲージメント(引きつけ力)が見える化されたらいいですね。
興味のある方は以下を読まれるとよろしいかと思います。
◎メディア・エンゲージメントが広告態度に及ぼす影響 中野 香織
エンゲージメントの発展
最近、気になるのがエンゲージメントという言葉の意味の拡大です。いろんな現場の方が書かれた文章を読んでいると、エンゲージメントは「引きつけ力」と言った出発点を超えて、今や「顧客との絆の核心」といった感じで使われるようになってます。
いいね! で終わらない本質的なエンゲージメントを生むコンテンツの作り方とは?
こうしたトレンドは知っておかれたほうがよいでしょう。個人的には、そのようなことはかなり前からリレーションシップと呼ばれて議論されてきたので、今更という気がします。ですが、次のような例も出てきてます。
エンゲージメント広告 事例 ロッテ カフカ
全く新しい斬新な「引きつけ力」だと思えるのもあります。ロッテのソフト・キャンディ「カフカ」の動画です。
このキャンディは、家事や育児に忙しいママ向けに開発された商品です。普通なら商品のUSPをテレビCMで流すところですが、あえてターゲットのママたちにとって最も切実な問題である赤ちゃんを泣き止ます動画を作りYoutubeで流します。ターゲットが最も喜ぶことを提供して、彼女たちの心を掴んだのです。
出典は以下のP.103-121
補足 リエンゲージメント広告とは?
最後に、ここまで述べたエンゲージメントの広告と全く路線の異なる似た広告用語があります。
これは特別なものとして捉えたほうがよいです。これは上記のエンゲージメント広告とは全く関係のない文脈で生まれたものなので、別個のものとして捉えてください。老婆心ながら補足です。
まとめ
ちょっと専門的すぎる話題でしたね。でもマーケティングの世界では、インサイトと並び旬のキーワードとなっています。
広告におけるエンゲージメントの本質について、わかりやすく解説したつもりですがいかがだったでしょうか。私見もかなり入ってますが、わかりやすさを優先した結果ですのでご容赦ください。
このエンゲージメントということばも、またその指標も発展途上です。私もまだカバーしきれてないことも多いと思いますが、今後も研鑽を積みたいと思っています。よろしくお願いします。