やり抜く力(グリット)|イチローとルフィーを例に解説してみた!

こんにちは、コンサルタントの中田です。今回は「グリット」について解説します。 グリットというのは、人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」といわれている「やり抜く力」のことです。 今までは社会的に成功するために、もっとも必要なのは才能や頭の良さ(IQ)、学歴などだと思われていたんですが、そうではなく、精神の力だったんです。 これを解明したのは、アメリカの女性心理学者のアンジェラ・ダックワース。彼女の発表した論文と書籍『やり抜く力』、アメリカで話題となり「グリット」という言葉が、一躍有名になりました。 やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

GRIT(やりぬく力)を最初に有名にしたダックワースの著書。彼女自身も天才ですな。

昔から「継続は力なり」という言葉に代表されるように、やり抜くことの大切さは常識としてあったのですが、あらためて科学的に再認識されたということです。 Facebookのマーク・ザッカーバーグ、オバマ大統領のスピーチにも「グリット」はたびたび登場しています。グーグルも採用の際にはグリットの強さを重視するといっています。 今回は、このグリットについて、どうしたら身に付けられるかを解説していきたいと思います。

グリットを提唱したダックワースはどんな人?

グリットの研究者アンジェラ・ダックワースは、アジア系アメリカ人です。中国からアメリカに移住してきた父母の間に生まれました。父親はデュポンの技術者、裕福なサラリーマンの家で愛され育てられたようです。 ダックワースは、成績優秀でハーバード大学に入学。大学時代は公立学校の生徒への学習ボランティア団体を立ち上げ運営をしていました。卒業後、コンサルティングファームのマッキンゼーに超エリートの道を歩み始めます。 しかし教育への情熱が忘れられず27才で高校の教師になります。そこで生徒の学習能力の差を原因を研究するため、研究者になったという方です。学習能力の違いを起点とし、人生のあらゆる成功の要因を調べ、それは「グリット」だったと突き止めたのです。 その結果、彼女の研究は大いに評価され、米国で天才的な人に与えられるマッカーサー賞も受賞しました。ここで重要なのは、彼女自身も天才であり偉大な業績を出した人間だということです。 今まで天才についての研究者は数多くいたのですが、ダックワースほどの高みにいる人が同じような天才達、そしてトップレベルのアスリートやビジネスパーソン、軍人らの出す成果の要因を探ったということは重要な意味があったと思います。 凡人が気づかないことも、彼女自身のセンスのおかげで判明したということもあるのではないかと思います。また普通の人が同様に「継続することが究極の能力だ」といっても説得力がなかったのではないでしょうか。

グリットとは?

グリット(英語Grit)は、造語とか新語ではありません。英語に元々ある言葉で「勇気,気概,闘志」を表します。 ダックワースは「グリット」の定義として次のようにいっています。

” The power of passion and perseverance”

直訳は「情熱と忍耐の力」でしょうか。一言で言うと「やり抜く力」となります。特に説明も不要ですね。

グリットの注意点

どんな人たちを研究対象にしてグリットは発見されたのか?

これはグリットをあなたに当てはめて考える時に、注意しておくべきことなので書いておきます。 ダックワースが主に注目していたのは、超一流といわれる人たちです。その分野において国を代表するクラスです。スポーツならオリンピック、もしくはプロスポーツ、軍隊ならその中でもエリート層といった感じです。 ですので、とてつもなくハイレベルな方たちを研究して導き出した知見だということは頭の片すみに入れておくとよいと思います。

グリットはこの点に注意!

ですので、ただ単純に何かを継続すれば何とかなるんだということではありません。 人が成果を出すこと、特に卓越した業績というものは、本人の元々持っている興味・関心、才能、そして環境が理想的な状況で整ったときに成せるものといえます。 ダックワースが研究対象にしている人たちは、強み・才能を持ち、経験も積み、優秀な指導者もバッチリついています。そうした中で、最終的に差がでる要因を探った結果が「やり抜く力」だったということです。 ですので、継続すればいつか結果は出る、なんでも成せば為るのだとは思わないでください

グリットを伸ばす方法

ダックワースは、グリットを伸ばす方法として、自分の内側から伸ばす方法4つと、外側から伸ばす方法3つを掲げています。 【内側から伸ばす方法】
  1. 興味:強い興味を持つ
  2. 希望:未来への希望を持つ
  3. 目的:強い目的観を持つ
  4. 練習:たゆまない練習を続ける
【外側から伸ばす方法】
  1. 親:親からの良い影響を受ける
  2. 課外活動:自主的な活動に参加する
  3. 集団:他人からの良い影響を受ける
それぞれについて詳しく説明しましょう。

興味

まずは長期間継続できる、情熱を傾け続けられる「興味」を持っていることです。高いグリットを持つ人は、尋常ではない興味や関心を取り組む対象に持っています。 テーマによっては何年、何十年となりますからそれだけ続けられることですね。グリットの高い人は、飽きることを知らず、常に新しい視点でさらなる高みを目指そうとするそうです。イチロー選手はまさにこのとおりです。
これでいいと思えるものを見つける。 確かに、その瞬間は「今は、これでいい」って思えるんです。 でも、 1週間後には、また変わってくる。 「これでいい」と思っていたものが、「いい」とは思えなくなってくる。 それで、今度は「もっと、いいもの」をまた探し求めなくてはならない。 この繰り返しなんですよね。 でも、この探し求める、ということが面白いし。 これが、野球を続けられるモチベーションなんですよね。

(出典:児玉光雄『この一言が人生を変えるイチロー思考』三笠書房 2009年)

目的

取り組むテーマに対して、飽きずに情熱を傾け続けるには、本人が腹の底から納得しているそれなりの目的がないと無理です。卓越した業績を残す人は、やらざるを得ない強力な目的意識を持っています。 それは困っている人を助ける、環境問題を解決するという社会的な意義でもいいし、スポーツの世界記録を塗り替えて世の中の人に勇気を与えることでも結構です。 「なぜ自分は真剣に取り組む必要があるのか」ということが分かっている人といえるでしょう。

希望

未来に対して明るい見通しを持てることが必要です。自分の努力次第で未来はよくなると信じることです。それが無いと逆境に陥った時、簡単に挫折してしまうからです。 ダックワースは、特に知的能力については「決して先天的に決まってしまっておらず努力によって伸ばすことができる」という成長思考を採用することを推奨しています(知的能力は決まっていて伸びないと考えることを「固定思考」といいます)。

練習

とにかく小さなことでもコツコツと何年にも渡って、練習を積み重ねていくことがグリットを伸ばします。 ダックワースが推奨しているのは「意図的な練習」です。これは次のようなポイントを押さえた練習方法です。これはエキスパートたちの習得方法の研究者であるエリクソンが提唱しているもので信頼できるものです。
  1. ある一点に的を絞って、ストレッチ目標(高めの目標)を設定する
  2. しっかりと集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す
  3. 改善すべき点がわかった後は、うまくできるまで何度でも繰り返し練習する
以上が内側からの伸ばし方です。次は外側からの伸ばし方を紹介します。外側というのは、自分以外の人の力を借りるという意味です。 良きタイミングで適切な支援と励ましをしてくれた人の存在は重要で、グリットを伸ばすためにかかせません。まわりのそうした良き人々に「やり抜く力」を伸ばしてもらうことは必要でもあるのです。

スポーツや音楽、伝統芸能の世界で成功者に多いのは、小さい頃から親の支援を受けていたパターンです。これは言われるまでもありませんね。 ダックワースは、親のあり方として次の二つについて注意すべきだと言っています。
  1. 親自身が人生の目標に対してどれくらいの情熱と粘り強さを持って取り組んでいるかどうか。
  2. 子供が親を手本にしたくなるような、生き方・育て方(子供への支援)をしているかどうか。
 

課外活動

いわゆるクラブ活動やお稽古ごと、地元のスポーツサークルなどです。これについては学術的な検証はまだされていませんが、適切な方法でやっていくことは、良い効果を生むだろうと著書で語られています。

集団

これは、グリットを大切にしている、もしくは伸ばせるような文化を持つ組織に入るということです。スポーツでは常識のことかもしれません。 サッカー、野球などのプロスポーツの世界では、より強いチームに入ること、そして移籍することは普通に行われています。 また優秀なコーチや監督に指導してもらうことも含まれます。人間は、身近にいる他人の影響をいろいろな形で受けることが科学的にもわかっています。またこのことは誰でも身近な体験も持っていると思います。 以上が、グリットを伸ばすためにダックワースが提唱している方法です。

グリットの伸ばし方をONE PIECEのルフィーに学ぶ

ではここでグリット(やり抜く力)の伸ばし方を実際の例で紹介しましょう。圧倒的な人気を誇るマンガ/アニメである『ONE PIECE』の主人公ルフィーを取り上げてみます。 ルフィーは、幼少の頃から海での冒険に憧れ、ワンピースという秘密の財宝を得ること、そして海賊の王者になることを目指します。作者の世界観で造られた世界で、仲間を見つけ協力し合いながら航海を続けていく物語です。 ここでは、ルフィーの「闘う強さ」の元となっているグリット(やり抜く力)について述べます。ルフィーは数々の訓練や戦いを経て、世界でも有数の強さを身に付けます。ルフィーは強くなるための訓練をいろいろやっているのですが、特に注目したいのは次の2つの訓練期間です。 サポ、エースと共に3人で過ごした幼少期 義兄弟となったサポ、エース、ルフィーの3人は、小さいながらも将来は海賊として活躍するため、過酷な訓練を自分たち決めひたすら続けていきます。 冥王レイリーとの2年間の修業期 現状の戦闘力に限界を感じたルフィーは、かつて大海賊の右腕だった冥王レイリーの助言で自分の戦闘力をあげなければ未来が開けないことを自覚します。そしてパワーアップするべく孤島でレイリーと二人で特訓をします。同時に同じ海賊団の仲間たちも同じようにそれぞれが決めて特訓を行い2年後の再開を誓います。 闘いの特訓は、両方とも過酷でした。幼児期なら、普通は親に甘えて守られて暮らすところを3人で毎日格闘技をして過ごします。また孤島ルスカイナでも相手は恐竜のような生物(正体不明)、しかも多数が相手です。 普通なら、逃げ出したくなるのになぜルフィーは自ら決めてこうしたことを、まさにやり抜きました ダックワースの掲げた伸ばすポイントに照らしてみていきましょう。 まずグリットを内側から伸ばす方法についてどうだったかみていきましょう。 ?興味 強い人間そのものへの憧れがまずあります。赤髪のシャンクスが片腕を失くしてまで守ってくれた、強き男へのリスペクトですね。 それから、自分の戦闘力を高めること自体も大きな関心を持っています。ルフィーだけにしかないゴムゴムの実の効果をどれだけ引出しユニークな技を開発できるかについて、並々ならぬ関心をもって取り組んでいるように見えます。ギア2(両足ポンプから発動)、ギア3(骨風船から発動)、ギア4(筋肉風船から発動)というように必殺技も進化させてますね。覇気の使い方も同様かと。 ?目的 強くなるための苦労をささえる最大のものは目的です。ルフィーの人生の目的は「海賊王」になる、そして「ワンピース」を見つけることです。小さい頃の3人でのトレーニングは、海賊船長として出発するための準備が目的でした。 そしてレイリーとの2年間の特訓の目的は「仲間を十分に守れるようになるため」でした。シャボンディ諸島で黄猿やパシフィスタに敵わず逃げるしかなかったことがおおきかったのだと思います。ルフィーがエースの死のショックから立ち直れたのもその仲間との絆があったからこそですから。その思いは強かったはずです。 ?希望 ルフィーをの訓練を支えたのが希望の大きさ、強さです。ルフィーが希望を持って特訓に耐えられたのは、まずそもそもルフィーが持っていた「楽観性」のおかげです。能天気なところがルフィーはありますが、これは結構大事な点で、ダックワースも重視しています。 それから、強力な成長思考です。ルフィーは自分が取り組めば絶対になんとかなるという不屈の意志を持っています(根拠はなくてもOK)。不安げになったルフィーの姿ってどこにも描かれてませんよね。 さらに希望が持てる一番大きな要因は「仲間との絆」です。 少年期は、エース、サポとの兄弟的なつながりです。両親との温かい関係が無かった3人にとって、家族同然であったことは間違いありません。 また孤島での特訓については、同じ海賊団のゾロ、ナミ、サンジらとの友情、そして一緒にいられる喜びが希望の素だったでしょう。 ?練習 練習についても、ダックワースの推奨する「意図的な練習」をやっています。高めの目標を設定して、集中し努力を惜しまずに、何度も繰り返してやっています。 幼少時代は、エースとサポを相手に実戦さながらの練習をしつつ、森の猛獣たち、グレイターミナル、山賊、町のチンピラたちなどとも実戦を重ねます。 ルスカイナでは、年に48の季節が巡る過酷な気候、そこで巨大な動物たち相手に特訓をします。 まあ、これらはマンガだからこそ可能な目標ですが、集中し努力し、繰り返しやってます。まさに理想通りです! では、グリットを外側から伸ばす方法について、ルフィーはどうだったでしょうか? あいにくルフィーは両親の養育は受けてませんが、理想通り、強くなるには最適なメンバーのいる環境で育ちます。 幼少時代は、エースとサポ、そしてダダン一家がいました。そしてシャンクスとの出会いもありました。孤島ルスカイナでは、冥王レイリーがマンツーマンで訓練をしてくれたのです。これ以上の環境は無かったでしょう。 闘うという点では非常に優れた素質と才能を持つ人間といっしょに過ごすことで、自然とその特徴も強化されるそうです。闘いに強くなるという意味では理想的な環境設定だったということです。 さすが一流のマンガの作者は、卓越した成果を出すそのプロセスも完璧に描いていますね。まさにお手本どおりです。あらためて記事を書きながら、作者の見識の高さに感動しました。

まとめ

今回は、グリット(やり抜く力)について、概要を紹介しつつ、例としてワンピースのルフィーを掲げて説明しました。いかがだったでしょうか。個人的にはONE PIECEを読み返してあらためて、マンガ作者の凄さを感じました。 一流の学者、アスリート、企業人、職人はみな高いグリットを備えています。今度そういった達人については、このグリットという観点から学ぶのも意味があると思います。 あとは、自分自身でいかに実践していくかが大事です。こちらのブログでもマインドセットについては、また取り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

参考文献

GRIT(やりぬく力)を抜きにこの手のことは語れません。ダックワースの本で述べられたことの実践編です。

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