AKB48 素晴らしすぎるコンセプトが卒業生の足かせに?

こんにちは。今回はAKB48の卒業生たちが、在籍時ほどは活躍できていない理由について掘り下げて見たいと思います。

AKB48の人気は今や不動、国民的スターです。今さら説明することもないでしょう。AKB48をプロデュースしている秋元康氏の才能は、誰もが認めるところです。

そんなスーパーグループのAKB48ですが、卒業してしまうと意外なことに活動が鈍ってしまうようです。人気の無かったメンバーなら仕方がないとも思えますが、前田敦子、大島優子といったナンバーワンの座にいたメンバーですら同じ状況に思えます。

これについては、私以外でも不思議に思う方はいるようで、ブログでもいろいろな意見が書かれています。社会学者の新井克弥氏も「AKB48を卒業すると、なぜメンバーはフェードアウトするのか」として取り上げているくらいです。

でも、よく調べてみますとAKB48の卒業生の活躍がイマイチであることは、単なるアイドル数名が売れなくなったという偶然の現象ではなく、AKB48の根底にあるビジネスコンセプトを展開させていった、当然の結果であると思うようになりました。

秋元康氏という天才的なプロデューサ-の考えの片鱗がわかるかもしれません。ビジネスにもきっと応用できると思います。ではさっそく分析していきましょう。

AKB48とは

AKB48については知らない方はいないと思います。いまさら解説するまでもありませんね。

2005年にAKB48劇場で初公演。2006年メジャーデビューし、2007年にはNHK紅白歌合戦に出場しました。その後は発表曲が続々1位を獲得。メディアからは「AKB現象」「国民的アイドル」と呼ばれるようになります。

21世紀にCDデビューした日本のアーティストでは最高売上を記録しているそうです。また『選抜総選挙』というイベントも誰もが知るものとなりテレビ中継が行われています。

さらにSKE48を皮切りに、SDN48、NMB48、HKT48、JKT48、SNH48、NGT48といった派生グループも結成されそれなりに活躍しています。

でも、そのAKB48の卒業生は活躍できていない。その理由を探ってみましょう。

【理由1】卒業で応援する理由が消える~アンダードッグ効果~

まず理由の一番目は、「卒業」すると応援するべき理由がなくなってしまうということがあります。このことについて説明しましょう。

そもそもAKB48のビジネスのコンセプトは何でしょうか?

批評家の濱野智史氏は『前田敦子はキリストを超えた』という本の中で、「会いにいけるアイドル」「成長を見守れるアイドル」がコンセプトだと言っています。

私はこの2つのうち「成長を見守れるアイドル」こそが彼女たちのコアとなるコンセプトだと思います。
「会いにいけるアイドル」というのも、コンセプトの一つではあります。専用劇場もあり、サイン会への参加確率も他のアイドルよりはかなり確実らしいです。でもこれは『成長を見守る』というコンセプトがあってこそのものなので、二の次ではないでしょうか。

だって売れてないバンドとかは、路上でもライブハウスでも確実に会いに行けますが、それだけでブレークするなんてことは無いわけです。

AKB48は、いわば学芸会的なヒロインとして、未完成な状態をファンが応援していくというものなのです。

秋元氏も次のように述べています。

ファンはアイドルに「シンデレラ・ストーリー」を求めているんです。いじめられたり、ぼろを着て雑巾がけをさせられたりして不遇だった女の子が、お姫様として大成功する物語をね。(『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』秋元康・田原総一朗)

若くて未熟、未完成な100人近くの女の子たちが、センターというポジションで歌えることを目指して、日々舞台で健気にがんばり続けるわけです。

「自分が支えなければ!」と応援したくなるのが人情ですよね。

実はこうした対象を支援してしまうというのは、別に対象がAKBというアイドルだからではありません。人間はだれでもそのような対象に感動し、支援をしてしまう性質があるのです。

これを「アンダードッグ効果(underdog effect)」(政治学用語)といいます。
アンダードッグとは英語の直訳だと「落ちてしまった犬」ですが、意訳すると同情をさそう人の例えです。

アンダードッグ効果の意味としては「人間は基本として不利な、可哀想な状態にある人を支援しがちである」というものです。

AKB48を卒業するということは、いわば「未完成」だったアイドルが「完成」してしまうわけで、すると「アンダードッグ効果」はなくなってしまうということです。

これはAKB48のコア・コンセプトが消滅するということなのです。
当然、ファンは離れるし、そのことがわかっているマスメディアも注目をしなくなります。その結果が、今の状況だということです。

【理由2】「完成された子は落とす」~真逆の採用条件~

ニ番めの理由は、そもそも卒業してからやっていけるだけの資質が不足していることです。これはAKB48のメンバーの悪口ではなく、そもそも女優・歌手としての潜在的、顕在的な可能性よりも、「アンダードッグ効果」を得やすい女の子を選んでいるので、仕方がないことなのです。

素人の私が考えても芸能界でタレントには以下のようなことが求められると思います。

「ユニークなキャラクター」「きらめく個性」「光る、華を感じさせる何か」「ダントツの面白さ」といったものです。

AKB48のメンバーはどうなのでしょうか?

たぶんこれらを備えたメンバーは採用されていないのではないでしょうか。
それは秋元氏の以下の発言からも読み取れます。

ジャーナリストの田原総一朗氏と秋元氏の対談より

秋元:(中略) AKBは、はじめはこんなにダメだったけど、やっと自分の応援でここまできた。それをファンは体験したい。だったら最初からすごい美人やお姫様ではダメじゃないですか。AKBのオーディションで、残念なが僕がことごとく落としてしまうのは、完成された女の子たちなんです。

田原:はい、完成された子は落とす?

秋元:プロダクションをいくつも渡り歩くとか、そこそこ経験があるという子たちは、ことごとくどうなっていくか想像できてしまう。僕だけじゃなくてファンのみなさんが見ても、この子は器用だから自分がいなくても伸びていくだろうなと思える。それはつまらないからAKB48にはいらないというのが、僕のプロデュースです。

(『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』秋元康・田原総一朗)

では、ついでに卒業生を受け入れるマスメディア側の状況もみてみましょう。

シビアな話ですが、女優・女性タレントとしてやっていけるかを最終的に決めるのは、ファンだけではありません。メディアの作り手(放送局・出版社)と、広告代理店、そしてスポンサー(企業)の判断もあります。日本では放送、出版、ネットのコンテンツは広告主である大企業がお金を払うからこそ成立しています。

放送局のプロデューサー、ディレクター、スポンサーが、AKB48の卒業生を、元AKB48だから起用するといった可能性はまずありません。だっていくらでも他に人材はいるからです。

AKB48という組織を出てしまえば、弱肉強食の芸能界に、ライバルがゴマンといるのです。「不器用」で秋元氏の構築した強力なシステムから切り離された普通の「女の子」たちにとっては厳しすぎる世界なのです。

【理由3】強みを活かす~得意でないことには手を出さない~

続いて三番めの理由です。秋元氏は卒業生がこうなることはわかっていたが、ビジネスの戦略として、あえて何もしないのではないかとも思っています。

手を打てない、フォローできないのではなく、意図して手を打たないのではないでしょうか。

AKB48のファンからすると、「秋元さん、卒業生を助けてやってくれないか」という気持ちは人情としてして当然持つと思います。
また秋元氏自身にもそうした気持ちは大いにあると予想してます。

秋元氏がその気になればAKB48の卒業生ユニットを作ることは、実力、そして影響力からして簡単でしょう。現に世界各地に派生グループをたくさん作っているのですから…。

でも卒業生ユニットはやっていません。また、ユニットを作らずとも卒業生をバックアップする能力は十分におありになると思いますが、特に仕組みとしては作ってませんね。

あえてやらない理由は、秋元氏が戦略的に自身の「強み」からはずれたことに手を出すことの危険性を知っているからだと思われます。

彼はプロデューサーとして1980年代にオールナイターズ、おニャン子クラブをヒットさせ、そして2000年代以降にこのAKB48ワールドを作り上げました。

「普通っぽい素人」を彼なりに時代に合った味付けをしながら組織化し、システム化するところに彼の強みと関心があるのだと思います。これ以外のことは手を出さないと決めているのではないでしょうか。

戦略とは「何をやらないか」を決めることです。

その気になればAKB48の入学前のグループ(妹分ユニット?)を作るとか、幼児からの養成学校を創るとかは簡単にできるでしょうが、あえてやらないところに、彼の徹底ぶりを感じます。

【理由4】コンセプトを貫く~卒業があってこそのAKB~

最後の理由は、理由3で述べたことと関連しますが、AKB48のコアなコンセプトを守りぬくため、あえて現状のままにしているということです。

卒業生ユニットとかソロでの支援を仕組みとしてやらないのは、AKB48のコンセプトを完遂させるためというのが最大の理由だと思います。

健気な若い女の子が青春をぶつけて頑張った
そしてみごとな成果を残した
そして卒業し、静かに去っていく

「卒業」というものにAKB48のエンディングの美しさを持たせたいのではないでしょうか(桜が散るかのように)。

例えば甲子園の球児たちをみな懸命に応援しますね。そして数々のドラマが生まれる中で、勝者が決まります。試合が終了し、悲喜こもごもの中で地元に帰っていきます。我々はただ見守るだけです。

それと同じなのではないでしょうか。

児童文学者の瀬田卓二氏は物語の基本形として、

主人公が日常からどこかに行って、そして何か非日常的なものを体験し、そして日常に帰ってくる。(『幼い子の文学 』瀬田貞二)

というパターンがあることを指摘しておられます。

天才的な作詞家でもある秋本康氏の、AKB48の「成長を見守れるアイドル」というコンセプトは、

オーディションで始まり、
ファンに応援されて成長し、
惜しまれつつ卒業する

というストーリーを守ることでもあると考えておられるのではないでしょうか。

下手に卒業生の支援システムを創りスポットライトを当ててしまうことは、AKB48のコンセプト自体を揺るがしてしまいます。それでは本末転倒ということです。

またこれは勝手な推測ですが、AKB48の卒業生も、たぶんこうしたことを自覚されていると思います。数千人の中から選ばれAKB48に入り活動できたということは奇跡的な成功なのですから。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
AKB48の卒業生がイマイチ売れない現状から出発しましたが、理由を探っていくと、ビジネスの重要なポイントが見えてきたのではないでしょうか。

売れない理由・原因は4つありました。
1.卒業でアンダードッグ効果(応援したい気持ち)が消える
2.そもそもメンバーが単独でやっていける資質を備えていない
3.秋元氏が強みで勝負するため余計なことは行わない
4.ビジネスコンセプトを徹底するため余計なことは行わない

しかしながら、あらためて秋元康氏の天才性や戦略の偉大さ、コンセプト創りの見事さを感じた次第です。今後のご活躍も楽しみです!